<全国高校野球選手権:秋田商8-3福井工大福井>◇15日◇2回戦

 秋田商が福井工大福井を下し、ヤクルト石川雅規投手(32)を擁した97年夏以来の勝利を挙げた。相手の右腕エース菅原秀(3年)の魔球「ナックルカーブ」対策を徹底。「見逃し三振はOK」と狙い球を絞り、2ストライクまで待球することで、1回に5四死球に2安打を絡めて4点を奪った。その後も大関匠太内野手(3年)の本塁打などで加点し、ケガから復活したエース近藤卓也、阿部勇星両右腕(ともに3年)のリレーで逃げ切った。

 秋田商の校歌が、15年ぶりに夏の浜風に乗った。ヤクルト石川がエースだった97年に、オリオールズ和田を擁する浜田(島根)を倒して以来の白星。当時、主将として石川の女房役を務め、母校で指揮を執って4年目の太田直監督(33)は「校歌を聞いて、とてもうれしかった。選手がよく頑張ってくれた」と当時を思い返しながら、選手をねぎらった。

 聖地で味わう勝利の味を、後輩たちにも-。太田監督は「今までやったことがないことをやった。『積極的な待ち』です」と腹をくくった。2ストライクまでスイングしない待球策。菅原は制球力が高くないと分析し、自滅を誘発するのが狙いだ。ナックルカーブなど鋭く落ちる変化球、145キロを超える直球に対応するため、追い込まれてからは徹底して狙い球を絞った。4番の近藤は「1巡目は、見逃し三振でも良いと言われていた」と明かした。

 1回、イチかバチかの作戦がピタリと決まった。先頭の柳田一樹遊撃手(3年)は、1ボール2ストライクからの4球目を直球と読んだ。来た球は、この日最速の148キロだったが、しっかり初スイングで中前へ打ち返した。この回43球中、アウト3つと2安打以外の38球は全て見送り。菅原を「配球を読まれている感じで、いつも振ってくれる低めを振ってくれなかった」と混乱させ5四死球。165センチの2番大関匠太二塁手(3年)のソロ本塁打も飛び出し、3回途中3安打8四死球7失点で降板させた。78球の内、秋田商打線が手を出したのはわずか11球だった。

 魔球使い相手に、チーム打率は出場校中最低の2割2分6厘。下馬評は相手が上だったが、選手は必死で食らい付いた。秋田大会直前、太田監督はある新聞記事を見せて言った。「諦めずにやれば、こうなるぞ」。15年前の浜田戦。2点ビハインドから9回に3点を奪い、4-3のサヨナラ勝ち。太田主将は、試合中に大量の鼻血を出すほどの闘争心で戦っていた。そしてこの日、教え子たちも戦前の予想を覆して快勝した。当時のチーム打率は、出場校中最高の4割6分9厘。戦うスタイルは変わっても、粘り強く戦う秋田商の原点は不変だった。

 右人さし指の裂傷から復活した近藤は、6回3失点の粘投。肘痛で近藤を欠いた春、全試合で先発した阿部も7回からの3イニングを無失点で締めた。帽子に「恩返し」としたためた近藤は「今度は野手を助けたい。ベスト8が目標だけど、1つでも多く勝ちたい」。倉敷商(岡山)を倒し、まずは先輩たちが踏み込んでいない8強への扉をこじ開ける。【今井恵太】