NHKの報道番組「クローズアップ現代」で昨年5月14日に放送された「追跡“出家詐欺”~狙われる宗教法人~」をめぐり、やらせ疑惑が浮上している件で、ブローカー役に仕立てられたと主張する大阪府内で飲食店を経営する男性(50)が1日、大阪市内で、代理人弁護士とともに会見した。

 男性は同日、代理人とともに、同市内で、NHK側の聞き取り調査に応じ、局側に訂正報道を求める申し入れ書を提出。男性側は7日以内の回答を求め、今後、局側の対応が意に沿うものではなかった場合、放送倫理・番組向上機構(BPO)に申し立てるとした。

 やらせ疑惑が持ち上がった番組は、昨年4月25日に「かんさい熱視線」で最初に放送され、その後、同5月14日に「クローズアップ現代」で全国放送。寺で出家の儀式「得度」を受ければ、戸籍上も法名への変更が可能となる制度を悪用した「出家詐欺」を扱った内容。多重債務者が別人になりすまし、ローンや融資などをだまし取るなどする詐欺を取り上げた。

 番組内では、NHK大阪放送局の社会部記者が、出家詐欺のブローカーの事務所を突き止めたとしてインタビューし、同所を訪ねてきた多重債務者とブローカーの会話が放送され、記者は多重債務者の後を追い、直撃取材もしている。

 ここでブローカーとされた男性が、この日、会見し「私はNHKの記者に依頼されて、再現映像か何かと思い、ブローカー役を演じた。私はブローカーではない」と訴えた。

 また、同番組に多重債務者として登場しているA氏とは旧知の仲で、男性はA氏から一昨年秋に記者を紹介された。初対面の段階では「氏素性を名乗らなかったので(NHK記者と)分からなかった」が、男性が寺修業の経験があることから、寺宝の話などをしたという。

 それから約半年後、昨年の3月か4月ごろ、男性は再びA氏に依頼され、大阪市内のホテルで記者と面会。番組収録の意向を把握したという。当初は、記者から、男性が多重債務者、A氏がブローカーを演じるよう指示されたが、途中で入れ替わった。

 収録の際には、室内には布に覆われたカメラのような物があり、録音機器も確認していた。男性は「再現VTRを撮るのだろう」と思い、協力したという。

 この一連の流れについて、男性はA氏から50万円の借り入れがあり「断りにくい負い目、詳細を聞き出しにくい雰囲気があった。お察し願いたい」とし、詳細が把握できないまま、協力を続けたと説明した。

 収録後、不安になった男性は記者側に「いつ、どういう形で放送されるのか、問い合わせたが返答はなかった」といい、知らぬままに昨年4月に関西地区で放送。その時点では放送に気付かず、同5月に全国地区での放送があり、全国版での放送を一昨年秋に知った。その後、インターネットの過去番組検索などで、番組内容を確認した。

 番組では、自分の映像の際に「ブローカーとのテロップがあった」ため、初めて、男性は自らがブローカー役に仕立てられていたことを確認。記者を紹介したA氏に確認の電話を入れ、深夜の時間帯に通話ができ、A氏から「ブローカーやろ?」などと言われたという。

 その際の音声通話には「ずっとハレーションを起こしていて、感覚では、録音しているのではないかと思った」と振り返った。その後、A氏とは連絡がとれなくなったという。

 男性は困惑し、以前から知っていた弁護士に相談。3月下旬に週刊誌報道があり、NHK側からの接触も受け、この日の聞き取りに至った。

 男性は「私自身、家族からもこんなこと(ブローカー)をやっているのか、などと言われ、ノイローゼ寸前になった。記者に説明を求めたが、謝罪はなく、言い訳から始まり、もみ消しまで求めてきた。私としては謝罪していただければよかった」と、訂正報道を求めた心境を語った。

 また、法的措置について、代理人は「金銭評価(賠償請求学)が難しい案件で、しかも顔が見えないように首から下を撮影し、音声も変えてあるため、司法的には考えていない。何より、本人は訂正を一番に求めている」とし、現状では訴訟へ発展させる可能性はないとした。