新国立競技場の建設計画の見直しや、エンブレムの白紙撤回など、今年は2020年東京五輪・パラリンピックをめぐり迷走が続きました。開幕まで5年を切り、解決しなければならない問題は山積みです。そこで今回はあえて、東京招致から開催反対を貫く「東京大学物語」などで知られる漫画家の江川達也氏(54)に、大胆な改革案を語ってもらいました。【取材・構成=高橋悟史】

<神宮は森にすべき 無機質ザハ案似合わない>

 江川氏は招致段階から東京開催反対を貫いてきた。2020年の五輪・パラリンピック開催決定後も、その姿勢は変わらない。

 江川 最初から反対ですよ。五輪は世界で持ち回りでやればいい。東京で2回もやらなくていいですよ。今度は名古屋にしてよって。リニアモーターカーが開通した後に名古屋でやれば、東京も大阪も北陸も近いから、日本全体が活性化する。だから2030年以降に名古屋開催が一番いい。僕は愛知の出身。名古屋は招致活動が下手だったからね(88年大会に立候補してソウルに完敗)。だったら名古屋に招致活動のノウハウを教えればいいじゃん。僕は渋谷区民なので、五輪開催は近所迷惑なんですよ。建設されたものが、大会後に利用されずに負の遺産になってしまう。税金を投入してペイできるのか。

 渋谷区は神宮外苑に隣接している。そこに建て直しされる新国立競技場の建設計画が見直されることになった。

 江川 最初にザハがデザインした新国立競技場だったら、神宮ではなく湾岸につくればいいんです。湾岸のほうがよく映えるデザインでしょう。お台場だってまだまだ開発されていない更地も多いし、湾岸に住んでる人たちだって待ち望んでいるでしょ? そもそも神宮に無機質なものは似合わない。以前から森にするべきだと思っています。昔は都心に渋谷川が流れていた。その渋谷川を復活させるくらい自然と共生してほしい。東京では子供が減っているにもかかわらず、待機児童が増えている。だからこそ神宮外苑を森にして保育園にすればいい。子供の森みたいに。あれだけ土地があるんだから。

<安上がりが「誇り」人材起用まだ間に合う>

 東京開催も、神宮外苑への新国立競技場の建設も決定事項で覆せない。現実的な改革案はあるのか。

 江川 最初言ったように僕は愛知の出身で、おやじは名古屋で中古トラックの売買をやっていた。大阪ですごく値切って買って、東京で高く売った。東京の人は値切らないから、そりゃもうかりますよ。東京の人はいらないものまで買っちゃう。大阪の人は欲しいものを値切って買う。名古屋の人は欲しくて必要なものですら買わない。欲しいものが10個あったら1個買うくらい。だから組織委の上層部も愛知県人で固めればいい。訳の分からない無駄な予算は減る。愛知県人は誇りにかけて安上がりにやるからね。

 実際に今年9月、名古屋出身で、組織委員会の副会長を務めるトヨタ自動車の豊田章男社長が、同委員会の改革チーム座長に就任。効率化、無駄なセクショナリズムの打開を目指している。江川氏はさらに中部国際空港の元社長、平野幸久氏(77、写真=共同)の参画を提案する。

 江川 セントレア空港をつくった人。平野さん。トヨタ関連の事業をしてた人で、セントレアは工期よりも早く、予算よりも安く完成させた。実績がありますよ。年齢も年齢なので、やってくれるか分からないけどね。あとはやっぱり猪瀬(直樹)さん(元東京都知事)でしょ。招致だって猪瀬さんが頑張った。名古屋のテレビ番組の取材で一緒になった時は、何を聞いても「うーん、言えない」ってだけで終わったんだよね。

<「コピペ」教育が元凶>

 新国立競技場の建設見直し決定後、今度はエンブレムの白紙撤回と不祥事が続いた。江川氏はこの騒動を日本の教育と結びつける。

 江川 パクリについては、やっぱり教育なんだよ。教育界は何十年も変わっていない。それどころか模範解答をコピペすることをよしとするのが教育。最近は自分で考えるって方向に少しは変わってきたけどね。でも昔の人は学校教育に対して「俺は俺でやる」って反発心があった。不良でも俺のやり方があるって人がいて、普通の教育と距離を置く人がいた。今の子はどんどん模範解答にすり寄って、コピペするようになっちゃったから。俺の言っていることはある意味、極論だよ。ただ世の中を違う視点で見るって大事なことだと思うよ。

<「オリジナル」絶滅!?>

 最後に漫画家・江川達也氏に2つのパターンのエンブレムを描いてもらった。1つ目は「東京おりんぴっく」。CSのテレビ番組でも披露したもの。もう1つは日本を象徴するアニメの女の子のイラストだった。

 江川 こっちの「東京おりんぴっく」は俺の筆跡だからどこにもない。本当のオリジナルって、もう筆跡だけじゃないかって思うけどね。でもウェブ上で知ったんだけど、エチケットとしてどこかの国の言語をエンブレムに使うべきではないらしいね。みんなの祭典だから、特定の言語はだめなんだろうね。

 もう1つは女の子。漫画の大国なんだから女の子のキャラクターでいいんじゃないかって。ジャパニメーション。エンブレムとして新しいでしょ? 俺のオリジナルの絵だから他にないよ。もう何十年も前からこれを描いてるから。富士山とか日本を象徴するものがあるように、漫画文化っていうのも同じように日本を象徴するもの。これは歴史に残るでしょ。これほど日本を表現していて、オリジナリティーがあって、誰もまねしていないエンブレムはない。俺より年下の人には「俺が最初にこのキャラを描いた」って言える。こういうキャラを作っているのは日本人だけ。いろんな意味で理にかなってると思う。誰のパクリでもなく、一発で東京と分かるからね。

 ◆江川達也(えがわ・たつや)1961年(昭36)3月8日、愛知県生まれ。大学卒業後、公立中学校で数学の講師を5カ月間したのち退職。本宮ひろ志氏のアシスタントを約4カ月務める。「BE FREE!」でデビューし、「まじかる☆タルるートくん」「東京大学物語」「GOLDEN BOY」など、立て続けにヒットを飛ばす。漫画家以外にも幅広く活動。「タモリ?楽部」や「ビートたけしのTVタックル」など出演。

(2015年12月9日付本紙掲載)

【注】年齢、記録などは本紙掲載時。