カーリング日本女子の黄色いストーンが弾かれて、中央へ動いた。銅メダルが決まったあのシーンは、本当に英国のミスショットなのか。私はどんな時も笑顔を絶やさず、スポーツマンシップを忘れなかった彼女たちへの神様からのご褒美ではないかと思った。そして、すぐに握手を求めてきた英国選手たち。氷上の美しい光景に、温かい幸福な気持ちになった。

英国を下して銅メダルが決まり、写真撮影で手を振る、左から日本リード吉田夕梨花、サード吉田知那美、ステップ藤沢五月、セカンド鈴木夕湖、リザーブ本橋麻里(PNP・撮影=2018年2月24日)
英国を下して銅メダルが決まり、写真撮影で手を振る、左から日本リード吉田夕梨花、サード吉田知那美、ステップ藤沢五月、セカンド鈴木夕湖、リザーブ本橋麻里(PNP・撮影=2018年2月24日)

 平昌大会は韓国と北朝鮮の南北合同行進という『見せかけの平和』で幕を開けた。しかし、五輪にはつくられた演出などまったく無意味なのだ。夢に向かって、ひたむきに戦う選手たちの姿を見れば、それだけでみんなが平和を感じることができる。スポーツの力の大きさを、あらためて感じた17日間だった。

開会式で、「統一旗」を掲げ行進する韓国と北朝鮮の選手(撮影・PNP=2018年2月9日)
開会式で、「統一旗」を掲げ行進する韓国と北朝鮮の選手(撮影・PNP=2018年2月9日)

 スピードスケート女子500メートルの小平奈緒と李相花のライバルの抱擁は、政治的対立を超えて、日本と韓国の国民の胸を打った。フィギュアスケートの羽生結弦の圧巻演技には、アジアのファンも熱狂的な声援を送っていた。カーリング女子の藤沢五月の笑顔と謙虚な態度は、韓国人男性のハートにも突き刺さった。人の心を動かしたのは、見せかけではない、人間の純な姿だった。

スピードスケート女子500メートルで優勝した小平奈緒(右)は2位の李相花(イ・ソンファ)と健闘をたたえ合い抱き合う(2018年2月18日撮影)
スピードスケート女子500メートルで優勝した小平奈緒(右)は2位の李相花(イ・ソンファ)と健闘をたたえ合い抱き合う(2018年2月18日撮影)
フィギュアスケート男子フリーの演技を終え、大歓声に指を突き上げて応える羽生結弦(2018年2月18日撮影)
フィギュアスケート男子フリーの演技を終え、大歓声に指を突き上げて応える羽生結弦(2018年2月18日撮影)

 昨年12月、特集紙面の取材で卓球の福原愛からこんな話を聞いた。「競技をする上では国同士の問題は気にしていません(中略)スポーツの外の世界ではいろいろあるかもしれないけど、私たちの中には何もない。逆に五輪を通して仲良くなる機会になればいい。五輪は世界が一つになれる唯一の大会だから」。その通りなのだと思った。

 それにしても日本勢のこの躍進ぶりはどうだ。金4つを含む13個のメダルは98年長野大会の10個を上回る最多記録。新種目やカーリング女子など、あらゆる競技にメダルが広がった。15人の10代選手たちも頑張った。世代を超えて、誰もがいろんな競技に親しむことができる、スポーツの土壌が日本に根付いていることの証しでもあるのだ。

 閉会式の日、国内で東京マラソンを取材した。2位でゴールした26歳の設楽悠太が、16年ぶりに日本新記録を樹立した。平昌大会の日本選手たちの活躍にも刺激を受けたという。平昌から20年東京大会へ、しっかりとバトンが引き継がれたのだ。それをこの目で確かめられたこともまた、うれしかった。【首藤正徳】

日本新記録となる2時間6分11秒をマークし、日本勢最高の2位でゴールする設楽悠太(撮影・柴田隆二)
日本新記録となる2時間6分11秒をマークし、日本勢最高の2位でゴールする設楽悠太(撮影・柴田隆二)