【金子真仁カリフォルニア編Ⅱ】バンに乗り、大谷翔平から足を延ばして/連載〈15〉

旅が好きです。日本の全市区町村の97・3%を踏破済みです。その遍歴は球界関係者に興奮されたり、どん引きされたり。かけ算の世の中、野球×旅。お気楽に不定期で旅します。題して「野球と旅をこじつける」。第15回はまさかまさか、日本列島を飛び出してアメリカ合衆国へ―。

その他野球

「ちょっと相談なんだけどさ…」

1月のある日。北海道別海町での取材中に、東京本社にいる部長から電話が来た。「セイコーマートは領収書切っちゃダメだぞ」とか、そういう話だろうか(切ってないけど)。

「知っていると思うけれど、これから会社で大谷翔平関連のプロジェクトがあって、今度紙面でも公表するんだけど。で、ちょっと相談なんだけどさ…」

まさかまさか、である。ロサンゼルスへの出張指示が言い渡された。19年夏に日本代表入りした大船渡・佐々木朗希投手を追いかけて韓国でのW杯取材に行き、佐々木は160キロを投げなくて、タクシーが高速道路で160キロを出したあの時以来、5年ぶり2度目の海外出張である。

かくして3月14日昼過ぎ、羽田空港からアメリカン航空便に乗った。英会話は「できない」と潔く言った方がいいレベル。まつげの長い外国人女性が荷物を入れられずに困っていたから、手伝う。「センキュー、センキュセンキュー」と3度言われた。これからお世話になる国へ、せめてもの誠意のつもりだった。

機内食をとり、映画「タイタニック」も久しぶりに見る。老夫婦のシーンで感極まる。そろそろ寝ようかなという離陸3時間後。しかし近くの家族がにぎやかだ。小さな子どもがバンバン何かをたたいている。

眠れない。ロサンゼルス着は現地朝6時台の予定で、長い1日が待っている。寝ないと。焦りが心拍数を上げる。イライラしたら嫌な思い出になる。機内ビジョンで音楽を聴くことにする。何でもいいや。POPSから適当に選ぶ。

再生。あ、なんかすごくいい曲だ。ジャズっぽくもR&Bっぽくもあり、女性の歌声やメロディーがすごく情緒的。「Bewitched,Bothered,and Bewildered」というタイトル。どうやら原曲を誰かがカバーしているみたいだけれど、しみた。あぁ、アメリカってすごいな。5回も6回も繰り返し聞いて、少しずつ心拍が落ち着いてきて。

でもやっぱり一睡もできなかった。仕方ない。中央ブロックから眺める窓に、朝焼けが映る。飛行機が浮いて、太平洋をまたいで、9時間29分02秒後に再び着地する。それが私の、人生初のアメリカ本土上陸であった。

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1980年11月、神奈川県座間市出身。法大卒、2003年入社。
震災後の2012年に「自転車日本一周」企画に挑戦し、結局は東日本一周でゴール。ごく局地的ながら経済効果をもたらした。
2019年にアマ野球担当記者として大船渡・佐々木朗希投手を総移動距離2.5万キロにわたり密着。ご縁あってか2020年から千葉ロッテ担当に。2023年から埼玉西武担当。
日本の全ての景色を目にするのが夢。22年9月時点で全国市区町村到達率97.2%、ならびに同2度以上到達率48.2%で、たまに「るるぶ金子」と呼ばれたりも。