【フィラデルフィア(ペンシルベニア州)=四竈衛】イチローが、ついに投手デビュー。マーリンズのイチロー外野手(41)が、今季公式戦最終戦のフィリーズ戦で、メジャー初登板を果たした。自ら志願し、4点ビハインドの8回裏から登板し、打者5人に対し、18球、2安打1失点無四球。最速89マイル(約143キロ)には不満顔だった。

 数々の大記録への重圧と闘った過去とは、明らかに違う。苦しみ抜いたメジャー15年目。最終戦のフィニッシュの舞台として、イチローが選択したのは、マウンドだった。8回裏「ピッチャー、イチロー」のアナウンスに、敵地場内は一瞬、静まり返った。それでも、小高い丘の上に立ったイチローは、表情ひとつ変えることなく、テンポ良く、丁寧に投げ込んだ。

 先頭ヘレラに右翼線二塁打を浴びたのをはじめ、打者5人に、18球(ストライク11球)を投げ、2安打1失点。最速89マイル(約143キロ)の速球、キレのあるスライダー、自ら「スプリットチェンジ」と呼ぶ決め球を駆使しても、抑えられるような相手ではない。

 「メジャーリーグのマウンドに立つなんて、通常、あり得ないこと。その事実は、もちろん、思い出として残しますけど、2回目はいらないです。2度とピッチャーの悪口は言わないって誓いました。(球速は)最低90(約145キロ)、と思ってました。ショックですね」

 イチロー節全開だったが、「思い出作り」のためでもなければ、打者を牛耳るためでもない。今後の野球人生を、これまでとはまったく違う形でリセットするために、登板を志願した。

 新天地マ軍での1年目は「外野の控え」としての位置付け。打率は自己ワーストの2割2分9厘に終わった。それでも、開幕前に「かわいくて仕方ない」と表現した同僚への思いや、来季以降プレーし続ける意欲は、今も変わっていない。

 だからこそ、イチロー自身にとって、区切りとなる「儀式」が必要だった。「チームメートは素晴らしいし、支えられてきたというのが大きい。自分の数字は目を疑うものでしたが、ただ、あれをやっておけば良かった、ということはひとつもないです」。42歳で迎える来季へ向けて-。初めてメジャーのマウンドに向かった背中に「再出発」への意志が込められていた。

 ◆史上3番目 通算2935安打のイチローがメジャーで登板を果たした。ESPNによれば、イチローより多くの安打を放った野手が登板したのは、1925年のT・カッブと、1999年のW・ボッグスの2人だけ。