右肘内側側副靱帯(じんたい)の再建手術(トミー・ジョン手術)から復帰したエンゼルス大谷翔平投手(24)。打者専念のメジャー2年目の打撃フォームには、ルーキーイヤーとわずかな違いがあった。連続写真で分析する「解体新書」で、和田一浩氏(46=日刊スポーツ評論家)が解説する。

   ◇   ◇   ◇

右肘手術明けでメジャー2年目を迎える大谷だが、昨年と大きくフォームを変えていない。少し足を浮かせた今季の(1)が、昨季の<2>に該当しているが、比較すると軸足(左足)に体重を残す意識とグリップの位置を後ろに置く意識を、少しだけ強くした感じ。微妙な違いだが、頭の位置とグリップの位置を比べてもらえば分かると思う。

わずかな違いだが、打ちにいくときに立ち遅れたくないのだろう。弓を射るときの動作で例えるなら、最初から目いっぱい矢を引いた状態を作っておき、あとは離すだけの状態。打撃に置き換えれば、打ちにいくだけの体勢を早い段階で作るのと一緒だ。元々ノーステップ打法の原点は余計な動作を省き、動きをシンプルにすること。右投げ左打ちの弱点は、利き手のある体の右サイドを使って打ちにいく点。投手に近いサイドを使って打ちにいくため、どうしても立ち遅れやすくなる。ちょっとの違いだが、最初からグリップと頭の位置を後ろにしたのは、大谷なりに立ち遅れせず、強い打球を打つための意識の表れだろう。

ノーステップ打法は、体の反動を使わない分、インパクトでのパワーが足りなくなる。日本人でノーステップ打法で大成した打者がいないことからも、パワーで劣る日本人には不向きな打法だと言える。ただ、大谷は外国人のパワーヒッターと比べても身体的な見劣りはない。そして器用さもある。<1>~<6>と(1)~(4)の左肘の動きに注目してほしい。<5>と(3)で、わずかに肘の先端部分が上がっているのが分かる。

肘だけを上げようとすると、グリップの位置が背中側に入ったり、バットの先が頭の前に入りバットの角度が変わり過ぎたりする。しかし、大谷はほとんど変わらずキープしている。これは左手でグリップを柔らかく握り、肘と手首の関節だけを“しなる”ように使えるから。動きの少ないノーステップ打法の中に効果的な“しなり”を入れ、パワーを生み出している。

利き手でない左手を、これだけ器用に使える打者はなかなかいない。ノーステップ打法のパワーヒッターの多くは、利き手が後ろにある右投げ右打ちか、左投げ左打ち。右投げ左打ちの大谷の器用さを、象徴している動きだろう。

昨年の連続写真はやや甘めの内角直球をレフト前へ、今年は外角直球をレフト前へ運んだもの。どちらも「さすが」と思わせるスイングだが、唯一の修正した方がいい箇所が今季の(5)の左足だ。よく見ると、スパイクのつま先部分が浮いていて、かかと体重になっている。だから、やや腰が引けたような形になってしまう。内角球を打ったのなら仕方がないが、昨年の内角球を打っている<7>の左スパイクを見ると、しっかりとつま先体重で打ちにいけており、腰も入っている。

腰が引けている状態で外角球を打ちにいくから、(6)では腕が伸びきり、下半身も突っ立ったようになり余裕がない。大谷はリーチも長く、ある程度の外角球でも届くからヒットにできるが、並の打者なら難しい。今年のこの打席は、しっかりとつま先体重で腰を入れて打てていれば、ホームランにできたのではないか。インパクトした直後の打球の位置から推測しても、これだけ球を引きつけて打てる打者はとても少ない。逆方向に長打が打てる資質を備えている証拠だろう。

ではなぜ、今年はかかと体重になってしまったのか? 1つは復帰して間もなく、まだ自分のスイングができていない可能性。そして2年目で相手球団から内角を攻められフォームを崩している可能性がある。今後の矯正ポイントになるだろう。

フォロースルーを比べても、内角球を打った<8>以降はきれいに体を回転させて打ち、外角球を打った(7)以降は体を開かずにしっかりと打ち切っている。今季のかかと体重になっている点を除けば、両方とも両手をバットから離さずに振り切っていて、内外角の打ち方の手本になる打ち方。うらやましくなる身体能力だ。はっきりと言えるのは、これまでの日本人選手の中で、大谷は文句なしのNO・1の資質を持っている。最高峰のメジャーでどれだけやれるのか、今年も楽しみは尽きない。(日刊スポーツ評論家)