<ア地区シリーズ:オリオールズ3ー2ヤンキース>◇第2戦◇8日(日本時間9日)◇オリオールパーク

 【ボルティモア(米メリーランド州)=四竃衛、水次祥子】ヤンキースのイチロー外野手(38)が、「忍者」のようなプレーを見せた。ア・リーグ地区シリーズ第2戦の1回表、捕手のタッチを2回かいくぐって先制点を奪う、奇想天外のスーパー走塁でスタンドを沸かせた。試合はヤ軍(東地区1位)が、オリオールズ(ワイルドカード)に逆転負け。対戦成績は1勝1敗となった。第3戦は10日(同11日)、舞台をニューヨークに移し、ヤ軍黒田、オ軍ゴンザレスの両先発で行われる。

 イチローが急ブレーキをかけた。1回表2死一塁。4番カノが右越え二塁打を放つと、一塁走者のイチローは三塁コーチの指示通り一気にホームを狙った。本塁の約3メートル手前にきたとき、捕手にボールが返ってきた。だが、イチローは走る速度を緩めていたため、フェイントのようにタッチをかわせた。さらに再びタッチにきたミットに対し、体を反転させながらよけて右手でホームプレートを触った。曲芸のような、忍者のような先制点に、スタンドは大きく沸き返った。

 決して偶然のプレーではない。三塁を回った時点で、通常の中継プレーならばセーフになる確率は低い。そこでイチローは考えた。

 「ああいうタイミングになるのは分かりきったことでしたが、可能性を出すにはどうしたらいいかを考えました」

 そのままトップスピードで一直線で突き進めば、待ち受ける捕手と交錯する。瞬間的に判断したのが、急ブレーキをかけることだった。

 「捕手の心理、頭を考えますね。まずは発想でしょう、スピードを落とすということ。(普通は)上げようとしますからね」

 走る速度を緩めたことで、タッチにくる捕手とのタイミングをずらした。

 「審判がよく見てくれたと思います。以前にも似たようなプレーがあってアウトにされたので、ちゃんと見てくれと思いました。1回(タッチを)外して2回目というのは珍しい。なかなかないですね」

 05年5月15日のレッドソックス戦。本塁上のクロスプレーで、イチローは捕手の頭上をジャンプしてホームベースにタッチした。だが、審判の判定はアウト。イチロー自身も、その時の光景は頭によぎっていた。力ずくで体当たりするわけでもなく、あきらめることもない。往生際が悪いようでも、セーフになる、ほんのわずかでも可能性を見いだす。それがイチローのプレースタイルだ。

 「ブレーキをかけることは怖くないですね。どんな動きをしてもケガをしないという自信はあります。いろんなことを思い切ってできるというのはあるでしょうね」

 この先制点にムードは高まったが、試合は逆転負け。対戦成績は1勝1敗となった。だが、3戦目以降は地元ニューヨークで戦える。「早く帰りたいという心理ですね」。11年ぶりとなるポストシーズンゲームで、イチローの存在感は際立つばかりだ。