最終候補3案による選考が行われていた2020年東京オリンピック(五輪)・パラリンピックの大会マスコットが「近未来の妖精」をイメージし、大会エンブレムにもある市松模様を取り入れたア案に決定した。大会組織委員会が2月28日、国内外の小学生が1学級単位で投票して決める“小学生マスコット総選挙”の開票結果を発表。全28万学級中、20万5755学級が参加し、福岡県のデザイナー谷口亮さん(43)が描いたア案が10万9041票を獲得し、選ばれた。小学生はもちろん、一般市民が投票し、マスコットを決めるのは五輪史上初の試みだった。
作者の谷口亮さんは、愛すべきキャラクターの苦労人だった。丸刈り頭に濃いひげ、カラフルな「どてら」姿で登場し「頭の中が真っ白」といい「大好きな奥さんに知らせたい」と喜びをストレートに表現した。
「福岡・天神で自作キャラクターのポストカードを路上販売」「収入が安定せずに貯金を切り崩し。今? 100万円切ってます」「冬はどてら、夏はげたにアロハシャツ。もう20年前から」…。次々に飛びだす言葉に個性があふれる。
福岡・中村学園三陽高卒業後に渡米。カリフォルニア州の大学で美術を学び、97年に福岡に戻った。2頭身キャラをイラストレーターの父富(ゆたか)さんに認められ「これ一本でいけ」と言われて専念。教育系出版社「ベネッセ」などでキャラデザインを担当、博多警察署のキャラクター「いかのおすし」も手がけた。もっとも、デザインコンペは負け続き。「レギュラーの仕事がある時はいいけれど、減ってきた」と笑顔で苦労を明かした。
そんな時にフェイスブックで見かけた「マスコット公募」。16年リオデジャネイロ五輪閉会式の東京への引き継ぎ式を見て「近未来を感じてワクワクした。日本が誇らしかった」という思いを、そのままデザインした。わずか2、3分でイメージはできあがった。キャラクター作りで心がけるのは「1つキモになる個性を入れシンプルに」。今回の個性は、大会エンブレムに使われる市松模様だった。
学生時代は「帰宅部」で「スポーツはしない」という。「アスリートはストイックですごい。僕はけっこうグータラなので」と笑わせた。「格闘技が好きなので、空手や柔道は見たい。昔、古賀(稔彦)選手に似ているといわれたことがあるから」と、2年後の東京大会に期待した。
賞金は100万円。作品の著作権は国際オリンピック委員会(IOC)などが持つために、権利料などは入らない。「でも、これを機に(仕事の)依頼をいただけたら」と谷口さん。苦労を続けたキャラデザイナーは、選んでくれた小学生たちに感謝して話した。【荻島弘一】