福島県いわき市のリゾート施設「スパリゾートハワイアンズ」のダンスチーム「フラガール」のラウレア美咲さん（本名・小室美咲＝年齢非公表）は、震災から10年を迎える21年1月に新キャプテンに就任、約40人のフラガールを率いている。
いわき総合高（福島県いわき市）の生徒だった10年前にはフラダンス同好会を立ち上げ、第1回「フラガールズ甲子園」の選手宣誓を務めた。人々に笑顔を届ける姿勢は変わらない。東日本大震災、東京電力福島第1原発事故からの復興に加え、新型コロナウイルスの収束を祈り、踊り続ける。
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華麗に手を上げ、ソロダンス最後のポーズを決めると、心を癒やすような笑顔に会場から拍手が湧き起こった。「こんな状況でも皆様に笑顔を届けるため尽くしていきたい」と小室さんは語る。
復興は1歩1歩進んできたが、地域差もある。震災と原発事故から10年。フラガールは新型コロナという新たな困難にも直面している。10年前のダンスチームはハワイアンズが休館となり、全国を行脚した。それでも「ホームがなかった10年前と逆で、今回はホームはある。福島の方々を始め、集まれる場所があるのは大きい」。40人のプロを率いるリーダーは前向きだ。
ハワイアンズには幼い時から家族で通った。踊りが好きだった。2010年、高校2年の夏、通っていたバレエスクールの先生に、「フラガールズ甲子園」の第1回大会が11年3月23日にいわきで開かれると聞いた。いわき総合高にはフラダンス部がなかったが「放送部員だったので校内放送で募集をかけました」。正式に認めてもらうのは大変だったが、担任に顧問を頼み、15人のチーム「HAUOLI（ハウオリ）15」を結成した。
11年3月11日。練習を終え、茨城県北茨城市の自宅へ帰宅途中、大きな揺れに襲われた。自宅の家具は倒れてガラスなどが散乱。ガスや水道なども止まり、いわき市の祖母の家に1週間ほど避難した。大会は中止となり、会場だったいわき市の芸術文化交流館「アリオス」は避難所となった。学校では県外に避難する生徒もいた。チームの後輩の2人も神奈川への転校が決まった。
開催のめども見えないまま迎えた同年6月、大会が東京・秋葉原で9月に開催されることが決まった。転校した後輩たちも一緒に出場できる。テレビ電話などを通じて、練習に励んだ。
「復興への願いを込めて精いっぱい演舞します」。同年9月、秋葉原。フラガールズ甲子園の選手宣誓で誓った。当時の心境を「福島に明るいニュースを届けたい。私たちは元気だということを全国に伝えたかった」と振り返った。準優勝に当たる優秀賞を受賞した。
12年4月に「スパリゾートハワイアンズ」を運営する常磐興産に入社し、同年7月にデビューした。11年の休館時、全国各地で「フラガール全国きずなキャラバン」を続けてきた先輩たちの姿はとても大きく見えた。「責任感を感じていた。自分にできるのか」。幼いころからあこがれてきた舞台なのに、喜びより不安が勝った。
「今福島を支えているダンシングチームだから頑張るんだよ」。福島の被災者から励まされた言葉も重圧だった。当時から指導してきた橋本加奈さん（46）は「1、2年目は笑顔が沈んでいたこともあったかな。復興がまだ進んでいない時期に笑顔で踊って良いのかと葛藤があったのだと思います」。それでも踊り、笑顔を届け続けるうちに、迷いは消えた。橋本さんは「周りがよく見える良いキャプテンです」とたたえた。
フラ甲子園のチーム名「ハウオリ」はハワイの言葉で「幸せ」や「楽しさ」の意味。ソロダンサーだけに与えられる小室さんのハワイアンネーム「ラウレア」は「平和、幸福、友情」。少女から大人に成長してもフラで幸せを届けたいという気持ちは変わっていない。
今月11日から始まる震災10年の新たな演目「Holo I Mua（ホロイムア）」を新キャプテンとして率いる。ハワイの言葉で「前に進め！ いつでも前向きに行こう」だ。「震災のこともコロナのことも、皆で乗り越えていけばダメになることはないと思うんです。協力して福島を盛り上げていきたい」。これからも笑顔で、前に歩いていく。【沢田直人】
◆ハワイアンズ震災後の10年
▼11年3月11日 東日本大震災発生。翌日より休館
▼同5～10月 「フラガール全国きずなキャラバン」で全国26都府県と韓国・ソウルを含む125カ所で247公演を行う
▼12年2月8日 10月1日からの部分営業再開を経て、グランドオープン
▼16年7月14、15日 熊本地震の被災者を慰問
▼18年12月11、12日 西日本豪雨災害で被害を受けた広島を慰問
▼19年 きずなキャラバンで豪雨災害に遭った広島、岡山や東日本大震災の被災地である宮城、千葉などを訪問し公演
▼20年4月 新型コロナで臨時休館
▼同7月1日 営業再開
