将棋の羽生善治九段(51)と囲碁の井山裕太王座(33)の特別対談「AIと囲碁将棋の深遠な世界」が1日、東京・大手町「日経カンファレンスルーム」で実現した。

日本経済新聞社が主催する、囲碁と将棋の「王座戦」が70期を迎えたのを記念した。2人は、2018年(平30)2月に国民栄誉賞を同時に受賞した。羽生は将棋の王座戦19連覇を含め、通算24期獲得。井山は現役の王座でもある。どちらの世界でも隆盛を極めているAIとの関係を中心に、お互いの思いなどを披露した。【取材・構成=赤塚辰浩】

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対談はお互いの王座戦での思い出、王座就位式でもらう賞杯の重さ(実は7キロ)についてなどから始まった。羽生は「20キロ」と答えて外し、井山は「これを持つために体力を鍛えないと」と冗談を飛ばし、それぞれ参加者を笑わせた。

AIの話題になると、プロ棋士としての考えが言葉の端々から出てきた。

羽生 AIは便利なツールの1つとして活用しています。研究の際の重要度は自分で考える時と五分五分。参考にしながら考えます

井山 かつてはAI対人間という構図でした。今は戦う相手というより、AIを使ってレベルアップにつなげるとか、いい部分を吸収していこうとしています

AIの指し手についてもそれぞれの考えがある。

羽生 これは絶対ないという手もあれば、言われてみればという手も、全然理解できない手もある

井山 その時々によって言うことが違う。自分にマネできない手を提示されるし、理解するのに時間がかかる。後が続かないと思うと、その手は使いません。うのみにするのではなく、掘り下げて考えるようにしています

AI全盛の中での棋士の個性についても問われた。

羽生 指し手に評価値が出てきますが、これを信じてやると全部同じ。自由に独創的にというのが難しくなっています。指した手がマイナス500点だと気持ちがなえますが(笑い)

井山 序盤の研究がかなり進み、布石や戦法が同じようになることが多い。最初は推奨する手と自分の打つ手のギャップが多く、戸惑いもありました。AI=正しいとなりがちでしょうが、人間ならではの思いを出していけたらと思います

将棋は藤井聡太5冠(20)、囲碁は仲邑菫二段(13)と、若手はAIでの研究が当たり前。第一人者はどう見ている?

羽生 藤井さんがどう使っているか見たことはありませんが、活用して強くなっている部分と、もともとのポテンシャルもあります。直接は聞きづらいですが

井山 彼女らの世代ではAIがあるのは当たり前。子どもたちがAIに頼ると自分で考えることをしなくなってしまうので、活用法を模索しています。

最後に羽生が、AIを駆使して台頭している若手世代らについてこう話した。

「私はアナログの時代に将棋を始めているので、すごく損した気分。彼らは条件や環境がいいし、強くなりやすいのは間違いないでしょう。でも、競争も激しくなるし、痛しかゆしでしょうが」。

◆羽生善治(はぶ・よしはる) 1970年(昭45)9月27日、埼玉県所沢市生まれ。故二上達也九段門下。85年12月、加藤一二三・九段、谷川浩司九段に続く3人目の中学生棋士として、プロ(四段)に。89年12月、タイトル戦初挑戦となった第2期竜王戦で、当時の史上最年少記録となる19歳3カ月で初タイトル獲得。94年、初の名人に。6冠として挑んだ96年の第45期王将戦で谷川から王将を奪い、将棋界史上初の7冠全制覇。通算獲得タイトル99期(竜王7、名人9、王位18、王座24、棋王13、王将12、棋聖16)と通算1504勝(655敗)は、歴代1位。

◆井山裕太(いやま・ゆうた) 1989年(平元)5月24日、大阪府東大阪市生まれ。石井邦生九段門下。97年夏、小2で小学生名人獲得。02年、中1でプロ(初段)に。05年の第5期阿含・桐山杯を制し、16歳4カ月の史上最年少で初タイトルを獲得。09年には当時の最年少となる20歳4カ月で名人に。16年4月、第54期十段戦で伊田篤史十段からタイトルを奪い、囲碁界初の7冠全制覇。同年11月に高尾紳路九段に敗れて名人を失ったが、翌年10月に奪い返して再度7冠に。通算獲得タイトルは棋聖8、名人8、11連覇中の本因坊、王座7など計69期。通算771勝309敗。