東京湾で釣った魚限定のイタリアン&山形産のおいしい純米酒の「夕べ」が14日に実施され、どんなごちそうに変身したのか、潜入してきた。腕をふるうのは名手奥田政行シェフで、コラボする酒蔵は庄内の鯉川酒造。そして魚調達のリーダーは海洋環境専門家の木村尚(たかし)さん。どうやら、ちょっと遅れた潮がスペシャルナイトには都合がよかったみたいだ。
12月14日、東京スカイツリーのすぐ横のビル31階の「ラ・ソラシド」。奥田シェフのイタリアンレストラン。一夜限りの豪華ディナーだ。53人が参加。イベント発表してすぐに1万2000円の席はすべて埋まってしまった。
ほぼ1週間かけて東京湾から食材を集めた。千葉・行徳のホンビノス貝と、同富津の海苔(のり)、横浜・小柴沖のアナゴは漁協の協力を得たが、その他の8魚種はすべて釣ってきた。
海の食材調達を仕切った木村さんは「意識して東京湾をぐるりと集めてきました。本来的には12月中旬では旬がすぎている魚もあったが、暖冬に救われました。素晴らしい食材を捕獲できたと思っています」と話した。
今冬、東京湾の潮温はなかなか下がってくれなかった。12月に入っても表層で20度台。スミイカの漁期はすでに終わっているころだったが、今月10日、モンゴウイカと半々ながら数はそろった。隔週刊「つり情報」斉藤貴伸記者がベテランを引き連れてノルマを達成した。
そのスミイカはセモリナ粉を薄くつかったフリッターで調理された。香味野菜フェンネルと一緒に食べると口の中に爽やかな苦味が残る。甘さではなく苦さでうま味を出していた。日本酒に合わせる大人の逸品だった。
料理に合わせるのは日本酒。奥田シェフが山形県鶴岡市出身で、地元の鯉川酒造と懇意にしていたことや、純米酒しか造らない頑固さなどにも共鳴して、江戸前の魚とイタリアンと庄内の純米酒のコラボとなった。
14日のディナー直前まで奥田シェフと鯉川酒造の佐藤一良社長でテイスティングを重ねて、料理の味付けがまとまったのはディナースタートの1時間前だった。直前までおいしさを引き出していた。
究極の逸品はマダイをさばいて中骨とホンビノス貝のダシからつくったペペロンチーノ。最後は富津産の海苔をちぎってスープに溶け込ませた。
日本酒も吟醸や濁り酒など6種が10皿の料理と絡んで調和して、各席で「おいしい」と笑顔を誘発した。最後は22年瓶内熟成させた大吟醸をデザートに合わせて、締めた。
奥田シェフは「山形と東京湾では同じ魚でも脂乗りや味は違う。それぞれのおいしさはあるけれど、今回の魚は釣ってきた状態のいいものばかり。楽しく料理できました」とほおを赤くして興奮しながら振り返った。佐藤社長も「純米酒とこんなにぴったり合うなんて、お酒も1人4合計算で持ってきたけど、すべてなくなりました」と笑った。
食材調達を指揮した木村さんはほろ酔いながら「あ~、うまい。ごちゃごちゃした感想はいらなくて、うまいだけでいい。東京湾の魚の実力を奥田シェフの料理と鯉川酒造のお酒で引き出してもらった。こういう釣った魚のイベントが増えてほしい」と話して「来年はディナーに参加するお客さんにも釣ってもらいましょう」と会場に呼びかけると、大きな拍手が返ってきた。【寺沢卓】
<東京湾・厳選素材>
★タチウオ 久里浜「大正丸」サバエサ釣り
★スミイカ 八景「一之瀬丸」シャコテンヤ
★アナゴ 横浜市漁協小柴支所、筒漁
★ハゼ 鶴見「新明丸」赤レンガ前の京浜運河でエサ釣り
★アジ 川崎沖、ジグヘッド&ワーム
★ホンビノス貝 行徳漁協
★マダコ 富津「みや川丸」手釣りのテンヤ仕掛け
★海苔(のり) 富津産
★イナダ&イシダイ 保田「国丸」ウイリー五目
★マダイ&イナダ 富浦「共栄丸」コマセ釣り