元モデルの歯学博士・照山裕子さんが、口臭が気になる、歯周病が進んできた…歯と口の悩みなど、皆さんの悩みに回答します。

 Q 神経を取りました。どう注意したらいいですか。

 A 歯の根の中に通っている血管や神経(これを合わせて歯髄と呼びます)は、虫歯が進行し細菌感染や炎症を起こした場合、細かな器具でかき出して治療します。放置しておくと根の先に炎症が広がり、強い痛みを引き起こす可能性があるためです。外傷や亀裂でも同様の処置が必要になることがあります。

歯髄が入っていた管(根管)の中をきれいに清掃(根管治療)し、再感染が起きないように詰め物をします。その後は歯に土台を立て、かぶせ物を装着することでかみ合わせを回復させることが可能ですが、補強していない歯は割れる心配があるため、痛みがなくなったからと言って根管治療だけ終えてそのまま放置しないようにして下さい。

根管治療後の注意点をもうひとつ。根の形態は十人十色であり、中が複雑にカーブしていたり、途中で枝分かれしていたりすることがあるため、コンディションによっては根管内を無菌状態にするのが非常に難しいと言われています。上顎の奥歯など治療しづらい場所もあるため、症例によっては再感染を起こしてしまうケースがあります。

感染力が強い場合は早い段階から腫れや痛みを感じることがあるものの、大半は慢性的にじわじわと進行し、身体の防御反応としてやがて根の先に根尖(こんせん)病変という袋状の防御帯を作ることがあります。根の先を押し、うみのような液体が出て気づいたという患者さんは、口内炎かな…と思っていたそうなのですが、違います。この病変はエックス線で黒く写るのである程度確認できますが、CT(コンピューター断層撮影)で3次元的に診断すると予想以上に大きく広がっていることがあります。この場合は根管治療をやり直しても治りが非常に悪いです。

日本の場合、80歳になっても20本以上の歯を残しましょうという「8020運動」が推進されていることもあって、どんなに悪いコンディションでもやっぱり歯を残したいという人が多いのが現状です。しかし、予防の概念が進む欧米では、さまざまな因子を複合的に判断し「ホープレス」の判断を的確に下すとされています。根尖病変が進みすぎた場合は骨が溶け、周りの歯まで悪い影響を及ぼすことがあったり、その段階になると患者さんが次のステップとしてインプラントを望んでも処置できないリスクが高まるからです。神経を抜いた歯は定期的にチェックを受け、状況次第では早めに歯を抜く選択があることも知っておいてください。

 ◆照山裕子(てるやま・ゆうこ) 歯学博士。厚労省歯科医師臨床研修指導医。歯と全身の関わりについて幅広く学んだ経験を基に、機能面だけでなく審美的要素にもこだわった丁寧な治療がモットー。分かりやすい解説でテレビ、ラジオにも多数出演している。学生時代はモデル事務所に所属。近著に「歯科医が考案 毒出しうがい」(アスコム)。