肺がん治療30年のスペシャリスト、国立がん研究センター中央病院の大江裕一郎先生(57)が、最新の肺がん治療を教えてくれます。

【肺がんに対する免疫療法のエビデンス】

 医療の現場ではしばしば「エビデンス」という言葉を用います。英語のevidenceを日本語にすると証拠、物証、証言、形跡などと訳されます。医療の現場で用いられるエビデンスとは、ある治療法が有効であると判断する場合の根拠と考えてもらえれば良いと思います。強い根拠をもとに有効と判断される治療を「エビデンスの高い治療」と表現します。

 エビデンスの高い治療とは、大規模な無作為化試験でそれまでの標準的治療と比較してより有効であることが証明されている治療のことを指します。逆にエビデンスが低い治療とは、単に専門家が推奨している治療や効果のあった症例の報告があるのみの治療です。

 肺がんに対して高いエビデンスのある免疫治療は、免疫チェックポイント阻害薬のみです。オプジーボは、肺の扁平(へんぺい)上皮がん、扁平上皮がん以外の非小細胞がんを対象とした無作為化試験で、それまでの標準的2次治療であったドセタキセルよりも延命効果があることが示されています。

 また、キイトルーダはPD-L1高発現の非小細胞肺がんに対して、1次治療として従来の抗がん剤治療よりも延命効果が優れていることが無作為化試験で証明されています。いずれも高いエビデンスのある治療です。

 これに対して、インターネットなどに掲載されている免疫治療の多くは、有効であったという症例の報告にとどまっています。これらの報告は権威のある学術雑誌の審査に通って掲載されているものでもありません。情報の質を見極めて、ぜひ、エビデンスの高い治療を受けてください。

 ◆大江裕一郎(おおえ・ゆういちろう)1959年(昭34)12月28日生まれ、東京都出身。57歳。東京慈恵会医科大学卒。89年から国立がんセンター病院に勤務。2014年、国立がん研究センター中央病院副院長・呼吸器内科長に就任。柔道6段。日本オリンピック委員会強化スタッフ(医・科学スタッフ)、日本体育協会公認スポーツドクターでもある。