肺がん治療30年のスペシャリスト、国立がん研究センター中央病院の大江裕一郎先生(57)が、最新の肺がん治療を教えてくれます。

【抗がん剤は副作用がつらい?】

  抗がん剤を投与すると吐き気がつらい、体力が落ちて逆に寿命を縮める、寝たきりになるなどと言われる患者さんが、時々いらっしゃいます。

 1980年代にシスプラチンが登場した当時は、それに近い状況であったかもしれません。しかし、現在では制吐剤などの支持療法が大きく進歩しており、同じシスプラチンを使用するにしても副作用は格段に軽減されています。

 以前は、シスプラチンを投与すると多くの患者さんは吐き気や嘔吐(おうと)に苦しみました。現在では、5HT3拮抗(きっこう)薬(パロノセトロンなど)や、NK1受容体拮抗薬(アプレピタント)などの制吐剤や輸液が進歩したことにより、外来でもシスプラチンを投与できるようになっています。

 これらの制吐剤とステロイドホルモンなどを併用することにより、吐き気もほぼ抑えられるようになってきました。また、シスプラチンよりも吐き気の軽いカルボプラチンもよく使われています。

 扁平(へんぺい)上皮がん以外の非小細胞肺がんに対しては、現在では比較的副作用の軽いアリムタが用いられています。アリムタは吐き気、脱毛、手足のしびれといった自覚される副作用も他の抗がん剤と比較すると軽度です。仕事を継続しながら外来でアリムタの投与を受ける患者さんも大勢いらっしゃいます。

 しかし、抗がん剤の副作用には個人差があって中には重篤な副作用が生じる場合があります。一番気を付けなければいけないのが、間質性肺炎です。この他にも、まれに重篤な副作用を起こすことがありますので、リスクとベネフィットを担当医とよく相談して、治療を受けて下さい。

 ◆大江裕一郎(おおえ・ゆういちろう)1959年(昭34)12月28日生まれ、東京都出身。57歳。東京慈恵会医科大学卒。89年から国立がんセンター病院に勤務。2014年、国立がん研究センター中央病院副院長・呼吸器内科長に就任。柔道6段。日本オリンピック委員会強化スタッフ(医・科学スタッフ)、日本体育協会公認スポーツドクターでもある。