肺がん治療30年のスペシャリスト、国立がん研究センター中央病院の大江裕一郎先生(57)が、最新の肺がん治療を教えてくれます。

【ALK融合遺伝子陽性肺がんに対する治療】

 肺腺がんの約5%の患者さんにALK融合遺伝子という遺伝子の異常があります。これは肺腺がんの中でも特に喫煙歴のない若い患者さんに多く認められます。気管支鏡などの検査で肺がんの組織を採取して、この遺伝子異常があるか検査をします。

 ALK融合遺伝子がある肺がんでは、ザーコリ、アレセンサー、ジカディアの3つのALK阻害薬が有効です。現在、1次治療として使えるのはザーコリとアレセンサーですが、アレセンサーの方がより効果が高く副作用も軽いと報告されています。

 ALK融合遺伝子を有する肺がん患者さんに、アレセンサーを投与すると90%の患者さんで劇的に腫瘍が小さくなり、その効果は多くの患者さんで3年以上も継続すると報告されています。

 ALK阻害薬も比較的長期間効果が持続するものの、いずれ効かなくなる可能性があります。ALK阻害薬が効かなくなる理由にはいろいろなものが報告されています。ALK阻害薬が効かなくなった場合、次にどの薬が最適であるかを調べることは現在ではまだ研究段階にとどまっています。

 ザーコリが効かなくなった患者さんに対しては、ジカディアやアレセンサーが有効であることが分かっています。しかし、アレセンサーが効かなくなった患者さんにジカディアやザーコリがどの程度効くかはまだ分かっていません。

 ALK融合遺伝子のある肺がん患者さんには、肺腺がんに対して最も広く使用されているアリムタが有効であることが分かっています。シスプラチンとアリムタなどの抗がん剤治療も効果的な治療方法なので、使用する機会を逸しないことが重要です。

 ◆大江裕一郎(おおえ・ゆういちろう)1959年(昭34)12月28日生まれ、東京都出身。57歳。東京慈恵会医科大学卒。89年から国立がんセンター病院に勤務。2014年、国立がん研究センター中央病院副院長・呼吸器内科長に就任。柔道6段。日本オリンピック委員会強化スタッフ(医・科学スタッフ)、日本体育協会公認スポーツドクターでもある。