あなたの心臓は大丈夫? 社会面では今日から新健康連載「ハートで決まる健康長寿」をスタートします。“心臓のスーパードクター”として知られる、東邦大医療センター大橋病院心臓血管外科の尾崎重之教授が、主な心臓病や最新治療など、医療現場の最前線について語ります。取材と執筆は医学ジャーナリストの松井宏夫氏です。

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 私たち心臓外科医が担当する患者さんの中には、手術日が決まっているにもかかわらず、その日を待たずに、ある日、突然に亡くなられるケースもあります。

 私がいる心臓血管外科には、「心臓弁膜症」の中の「大動脈弁疾患」の患者さんが多く、主治医から紹介されて受診されます。大動脈弁疾患の原因は「加齢」が多く、その一般的な手術となると、「人工弁置換術」がよく知られています。患者さんの機能の損なわれた弁を切除し、人工の弁に置き換える手術です。機械弁の場合は異物を入れることになるので、血栓ができやすく、術後は抗凝固薬を一生飲み続けなくてはいけません。

 私はその大動脈弁疾患で、患者自身の心臓を包んでいる心膜を使って弁を作る手術を、2007年に開発しました。これであれば抗凝固薬を飲む必要はありません。だから、大動脈弁疾患の患者さんが多いのです。

 70代のA子さんも、そんな患者さんの中の1人でした。大動脈弁疾患が進行すると、心不全の症状も出てきます。「階段を上るのがつらい」「息苦しい」「横になると息苦しく、体を起こすと楽になる」などの症状です。明らかに心不全の状態が進行していると、患者さんは自分で歩いての通院はできません。その場合は、即入院となり手術を行うことになります。そのようなことがA子さんにはなく、ごく普通にバスに乗って通院されていました。

 大動脈弁疾患の状態は、心臓超音波検査(心エコー)をすることでよく分かります。A子さんは「大動脈弁狭窄(きょうさく)症」で、手術の日程を決め、手術日に向けての準備を始めました。(取材・構成=松井宏夫氏)

 ◆尾崎重之(おざき・しげゆき)1960年(昭35)生まれ。東邦大医療センター大橋病院心臓血管外科教授。防衛医大卒、自衛隊医官、亀田総合病院、ベルギー留学、防衛医大病院を経て現職。07年に「自己心膜を使用した大動脈弁形成術」を開発。すでに1000例を超え、世界的に注目されている。

 ◆松井宏夫(まつい・ひろお)1951年(昭26)生まれ。日本医学ジャーナリスト協会副会長。中大卒、81年から医療を専門にし、名医本のパイオニアとして有名。日刊スポーツの健康連載を26年にわたり担当するほか、TBSラジオ「日本全国8時です」月曜に出演中。