<心臓弁膜症(11)>

 心臓弁膜症で手術になる多くは、大動脈弁が十分に開かなくなる「大動脈弁狭窄(きょうさく)症」。患者さんの中には手術を避けたいと思う方もいらっしゃいますが、座っていても息が切れる状態で、それに適切に対応しないと、厳しい状況が待っています。1年で25%、2年で50%の方が亡くなってしまうという現実があります。健康長寿を捨てないためにも、最適な手術のタイミングを主治医としっかり話し合って決めましょう。

 大動脈弁疾患の手術ですが、これまでに4つの方法を紹介しました。現時点ではまだ「人工弁置換術(機械弁)」「人工弁置換術(生体弁)」が多いのですが、これが今後大きく変わりそうな動きが見えてきています。これからは、手術の多くは「自己心膜を使用した大動脈弁形成術(尾崎式)」で、手術の適応にならないケースは「TAVI(タビ=経カテーテル大動脈弁留置術)」が行われることになるでしょう。

 ただ、TAVIは400万円以上の高額治療のため、医療費の増大につながります。病院の収入を増やすためや、患者さんの希望を受けて適応でない患者さんもTAVIを行うようなことは、決して患者さんのために良いとは言えません。また、医療費の増大は私たちの生活にも影響を及ぼしかねません。

 ドイツなどは早くからTAVIを導入していましたが、「弁輪が裂けて心臓が破裂した」「心筋梗塞を起こした」など問題も生じ、異物を使用せず、抗凝固薬が必要なく、医療費を削減できる尾崎式を導入するところが増えてきました。もちろん、TAVI適応の人はそれを行いますが、何が何でもTAVIに固執はしません。その動きは世界的で、米国、カナダ、スペイン、英国、ポーランド、ロシアの他、アジアでも15~16カ国で尾崎式が導入されていることが分かりました。実際、私が呼ばれて手術指導を行っています。手術も時間と共に変化していくのです。(取材・構成=医学ジャーナリスト松井宏夫)