<信頼できる心臓外科医とは(5)>

 心臓外科医はベストな体調で手術をするために、自己管理をしっかり行っているのだろうか-。「手術をするというのは、それを行う外科医の身体にとって良いことではない」と、私は思っています。手術をしている時に立っている時間は長く4~5時間は当たり前です。その上、姿勢は前かがみで首をかなり前に曲げています。この姿勢をずっと維持し続けます。頸(けい)、肩、腰にかかる負担は大きい。

 それでも、若いときは若さで突っ走っているものです。しかし、50代になると、やはり身体が思うように動かなくなります。だから、心臓外科医には自己管理が必要なのです。患者さんから信頼される「腕の良い心臓外科医」は、しっかりそれが出来ています。いつまでも最前線で手術をするには不可欠なことです。極端なことを言うと、“心臓外科医はアスリート”と私は思っています。

 マッサージに行く外科医もいますが、私はスポーツジムに週に2回程度通っています。ストレッチをした後、これまでは時速9キロで30分くらい走っていましたが、今は時速10・5キロで60分くらい走っています。

 そして、手術室ではより良い手術をするために、私は手術ベッドを自分にあった高さ、自分の方に多少患者さんが向くように麻酔医に頼み、少し動かしています。多少なりとも身体に負担のかからない状態にして、より良い手術を行います。自己管理をして体力を維持していないと良い心臓外科医にはなれないし、続けることができません。できれば、身だしなみもきちっとして、患者さんに不安を与えることのないようにするべきでしょう。それが、患者さんにとって“信頼できる心臓外科医”でしょう。(取材・構成=医学ジャーナリスト松井宏夫)