男は人前で涙を見せぬもの、などといわれていましたが、感動したとき、悲しいときに流れる涙をこらえてはいけません。

 このとき流す涙の成分には、脳の下垂体から出てくる副腎皮質刺激ホルモンが含まれています。このホルモンはストレスを感じたときに分泌されますから、つまり涙とともにストレスも流れ、解消されると考えられるのです。東京女子医科大学の研究によると、涙を出す前後に血液中の副腎皮質刺激ホルモンを測定したところ、涙を出したあとでは減少していて、ストレスが去り、すっきりするというわけなのです。

 岡本真夜さんの歌「TOMORROW」ではありませんが、涙の数だけ強く(=元気に、健康に)なれるのです。これからは老若男女、ぜひ思いっきり泣いてください。

 感動や悲しみなどの緊張による涙を流すことで、もう1つメリットがあります。副腎から分泌されるコルチゾールというホルモンを体外に出すことです。コルチゾールは、ストレスによって体内に増えますが、そのままにしておくと、脳細胞が死んでしまったり、体や神経をボロボロにしてしまうのです。

 これは1985年にウィリアム・フレイ博士が80人を対象に行った実験結果によります。博士は映画を見て感動して集めた涙と、タマネギをむかせて集めた涙を分析したところ、感動による涙には高濃度のタンパク質(コルチゾールだと思われる)が入っていたのです。

 余談ですが、女性が泣く際は1人で泣いたほうがよさそうです。女性の涙のにおいをかいだ男性は、血液中の男性ホルモンが少なくなるという報告があるからです。これはイスラエルのノアム・ソベル教授が、女性に親子の絆を描いた映画を観賞してもらい、涙を流した女性の本物の涙をビンに集めたものとただの塩水を、男性にわからないようにかいでもらう、といった実験に基づきます。

 研究結果では、本物の女性の涙をかいだ男性のほうが、女性に対して(性的)魅力を感じなくなってしまい、なおかつ、男性ホルモンであるテストステロンの血中濃度が少なくなったというのです。

 ◆森田豊(もりた・ゆたか)1963年(昭38)6月18日、東京都生まれ。秋田大医学部、東大大学院医学系研究科修了。米ハーバード大専任講師を歴任。現役医師として活躍すると同時に、テレビではコメンテーターのほか、「ドクターX~外科医・大門未知子~」(テレビ朝日系)など人気番組の医療監修も数多く務める。著書は「今すぐ『それ』をやめなさい!」(すばる舎)「ダイエットはオーダーメイドしなさい!」(幻冬舎)「ねぎを首に巻くと風邪が治るか?」(角川SSC新書)など。気分転換は週2回のヨガ。