早起きが必ずしも「徳」になるどころか、病気を引き起こし、寿命を縮ませることになりかねないことは、前回説明しました。イギリスのオックスフォード大学の研究で明らかにされています。糖尿病、高血圧、心筋梗塞、脳卒中、うつ病などのリスクが高まるばかりか、集中力や記憶力、コミュニケーション能力などが著しく減退することもあるというのです。

 脳や心臓、肺などあらゆる臓器に備わっている体内時計は、早起きによってズレが生じますが、加齢とともに自然に大きくなると、同大のケリー博士は指摘しています。そのため必要以上に臓器を酷使してしまい、病気を誘発するリスクがさらに高まるというのです。

 実際にケリー博士が65歳以上の高齢者の、平常時の起床時間と病気の発生リスクの関係を調査した研究結果があります。

 それによると、高齢者の理想とされる起床時間7時以降にいつも起きている人と比べ、6時前に起きている人は心筋梗塞や脳卒中などの発症リスクが最大約40%、糖尿病やうつ病などの病気も20~30%高くなり、その多くが重症になりやすいという結果が出ました。

 早起きが習慣化してしまったばかりに、脳や心臓に負担をかけ、その寿命を縮めてしまうのです。「年寄りは朝が早い」と言われますが、年齢を重ねれば、自分の意思とは関係なく、朝早く目が覚めてしまうものです。

 朝、早く起きないためには、深く眠ること。そのためには、昼間ぼんやりテレビを眺めているのではなく、夕方くらいまで趣味などに没頭して活動することです。囲碁や塗り絵、脳トレでもいいですから、集中力を要する趣味に時間をかけると、朝まで深く長く眠れるでしょう。

 高齢者だけでなく、「早寝早起き」より「遅寝遅起き」のほうが、私たちの健康にはいいようです。

 ◆森田豊(もりた・ゆたか)1963年(昭38)6月18日、東京都生まれ。秋田大医学部、東大大学院医学系研究科修了。米ハーバード大専任講師を歴任。現役医師として活躍すると同時に、テレビではコメンテーターのほか、「ドクターX~外科医・大門未知子~」(テレビ朝日系)など人気番組の医療監修も数多く務める。著書は「今すぐ『それ』をやめなさい!」(すばる舎)「ダイエットはオーダーメイドしなさい!」(幻冬舎)「ねぎを首に巻くと風邪が治るか?」(角川SSC新書)など。気分転換は週2回のヨガ。