茶わん蒸しなどに欠かせない食材に、ぎんなんがあります。イチョウの種の「核」と呼ばれる部分で、茶わん蒸しや、軽く塩煎(い)りにしたりします。きれいなひすい色のほのかな苦味を楽しみにしている人も多いでしょう。しかし、このぎんなん、食べすぎると、命を落とすことがあるというのです。

 85年、北海道医療大学の和田啓爾(けいじ)教授が、ぎんなんにはメチルピリドキシン(MPN)という中毒物質があることを突き止めました。この中毒物質は、神経の興奮を抑える物質「GABA」(ギャバ=γアミノ酪酸)を少なくする働きがあり、ぎんなんをたくさん食べることで、逆に神経を興奮させ、けいれん、呼吸困難、手足のまひ、不整脈など、さまざまな中毒症状を起こす可能性があるのです。

 実際、戦後の食糧難時代には、ぎんなん中毒の事故が多く発生し、死亡例もありました。52年の新聞記事によると、大人1人死亡、子供3人が重体と伝えています。新聞には、どのくらいの量のぎんなんを食べたのか書いていないので、ぎんなんへの恐怖心がいたずらにあおられてしまいますが、どれくらい食べると中毒症状が現れるのでしょうか。

 日本中毒情報センターによると、子供は1度に7~150個以上、成人は1度に40~300個以上を食べると、中毒になる危険性があるとしています。目安に幅があるのは、個人差が大きいということでしょう。乳幼児に関しては、中毒物質を解毒する能力が発達していないため、食べさせてはいけません。

 おいしいからといって、過ぎたるは、なお及ばざるがごとし。茶わん蒸しに入っている程度、数人で塩煎りぎんなんをつまむ程度の量なら、問題はないので、おいしく召し上がってください。

 ◆森田豊(もりた・ゆたか)1963年(昭38)6月18日、東京都生まれ。秋田大医学部、東大大学院医学系研究科修了。米ハーバード大専任講師を歴任。現役医師として活躍すると同時に、テレビではコメンテーターのほか、「ドクターX~外科医・大門未知子~」(テレビ朝日系)など人気番組の医療監修も数多く務める。著書は「今すぐ『それ』をやめなさい!」(すばる舎)「ダイエットはオーダーメイドしなさい!」(幻冬舎)「ねぎを首に巻くと風邪が治るか?」(角川SSC新書)など。気分転換は週2回のヨガ。