寄生虫である「アニサキス」(学名・Anisakis)による食中毒の報告件数が増えています。厚労省の統計によると07年に6件だったのが、16年には124人と、10年で20倍以上にも増えています。また日本におけるアニサキス症の発生数は、1年間に少なくとも2000~3000人以上と推定されます。

 なぜ、こんなに急激に増えたかというと、輸送技術の発展に伴い、生の魚介類を食べる機会が増えたこと。12年12月に食品衛生法の一部改正でアニサキスが食中毒の病因物質として追加されたため、アニサキスによる食中毒が疑われる患者を診断した医師は、保健所への届け出が必要になったことが挙げられます。

 ヒトへの感染は、アニサキスの幼虫で汚染されたさかなを生で食べた場合があります。まれにヒトの胃や腸壁に侵入し、数時間から8時間以内に激しい腹痛を生じます。吐き気、嘔吐(おうと)、そして時にジンマシンなどの症状を伴う場合もあります。感染のおそれのあるさかなはサバ、サケ、ニシン、イワシ、サンマなど。これらを食べて8時間以内に腹痛があったら要注意です。

 アニサキスは加熱だけでなく、冷凍することで死滅させることもできます。従って「生きの良いネタ」ほど、経口摂取の可能性が高くなります。厚労省では、寄生のおそれのあるものはマイナス20度以下で24時間以上冷凍することを指導しています。通常の料理で用いる程度のワサビ、ショウガなどでは、アニサキスは死にません。また厚労省HPでは「目視で確認して、アニサキス幼虫を除去してください」と呼び掛けています。これは食す人より調理する人に当てはまることかもしれませんが…。

 アニサキスの治療法では、胃カメラを用いて、消化管粘膜上のアニサキスを確認し、生検に用いるのと同じ鉗子(かんし)を使って虫体をつまんで、取り除く方法があります。虫体の除去で、すみやかに症状が消えることが多いです。

 正露丸でアニサキス症状による強い胃痛が消えたという報告もあります(11年)。正露丸に含まれる「木(もく)クレオソート」という成分が、アニサキスの動きを鈍くすると考えられています。しかし、内視鏡と鉗子でアニサキスを取り出すことが大事なことは、言うまでもありません。応急措置の中の1つで、試しに使ってみては?

 ◆森田豊(もりた・ゆたか)1963年(昭38)6月18日、東京都生まれ。秋田大医学部、東大大学院医学系研究科修了。米ハーバード大専任講師を歴任。現役医師として活躍すると同時に、テレビではコメンテーターのほか、「ドクターX~外科医・大門未知子~」(テレビ朝日系)など人気番組の医療監修も数多く務める。著書は「今すぐ『それ』をやめなさい!」(すばる舎)「ダイエットはオーダーメイドしなさい!」(幻冬舎)「ねぎを首に巻くと風邪が治るか?」(角川SSC新書)など。気分転換は週2回のヨガ。