デスクワークなどで座っている時間が長ければ運動量も少なくなって体内の血流も悪くなり、がんをはじめ、さまざまな病気を発症しやすいようです。これは、ドイツのレーゲンスブルク大学の研究グループが「ジャーナル・オブ・ザ・ナショナル・キャンサー・インスティテュート」誌(14年7月号)に報告した調査です。

 研究グループは、テレビを見ているとき、休んでいるとき、座って仕事をしているときなどの「座っている合計時間」とさまざまながんとの関連性を調べました。

 分析の対象となった人は400万人以上で、このうちがんになった人は約6万9000人だったそうです。1日に座っている時間が2時間増えるごとに、大腸がんのリスクは8%増、子宮内膜がん10%増、肺がんが6%増加していくことが判明したのです。

 また、1日に4時間以上座っている人はそれ以下の人に比べ、がん全般の発症率が大幅に高くなることがわかりました(26万人を対象に調査した米カンザス州立大学の研究結果)。これは、体の熱をつくる筋肉の70%は下半身にあり、座りっぱなしだと熱が生み出されず、その結果、免疫機能が衰えるからだと考えられています。

 デスクワークの人は1日に300キロカロリーしか消費しませんが、肉体的な仕事をする人は2300キロカロリーも消費しています。12年10月の「British Journal of Sports Medicine」によると、たばこを1本吸うと寿命が「11分」短くなりますが、テレビを座って1時間見ると「22分」縮むそうです。これは座ることでカロリーを燃焼しないだけでなく、体内で悪玉コレステロールを体に害のないものに変える「リポ蛋白(タンパク)リパーゼ」と呼ばれる酵素の生産を抑えてしまうのが原因だといいます。

 では、座って作業をしている分運動すればいいかというと、そうでもありません。08年の「Diabetes誌」によると、1日中座って作業する代わりに毎朝たとえば100回腹筋をやったとしても問題は解決しないそうです。1度の運動でカロリーを燃焼しても効果は長続きせず、リパーゼの生成でいえば1時間以内に90%もダウンします。とはいえ、仕事で毎日朝から晩までパソコンを扱う人も多いはず。そういう人は、座りっぱなしにならないように2時間に1回は席を立ち、手足を動かすことを心がけてください。

 ◆森田豊(もりた・ゆたか)1963年(昭38)6月18日、東京都生まれ。秋田大医学部、東大大学院医学系研究科修了。米ハーバード大専任講師を歴任。現役医師として活躍すると同時に、テレビではコメンテーターのほか、「ドクターX~外科医・大門未知子~」(テレビ朝日系)など人気番組の医療監修も数多く務める。著書は「今すぐ『それ』をやめなさい!」(すばる舎)「ダイエットはオーダーメイドしなさい!」(幻冬舎)「ねぎを首に巻くと風邪が治るか?」(角川SSC新書)など。気分転換は週2回のヨガ。