「病は気から」とは、昔からよくいわれていることです。極道者の息子のため心労が重なり寿命を縮める母親、仕事が忙しすぎてストレスがたまり過労死するブラック企業の社員など、気疲れしそうなタイプが思い浮かびますが、出来の悪い上司をもった部下、というのもその列に連ねられそうです。スウェーデンのアンナ・ニーベング氏による3122人を対象とした研究では、上司のリーダーシップ能力を最も低く評価した従業員、つまり「出来の悪い上司」のいる人は、心筋梗塞など深刻な心臓病になるリスクが25%も高かったそうです。

 さらに、4年以上も出来の悪い上司の下で仕事をしていると、リスクは64%に増加し、逆にリーダーシップ能力の高い、優秀な上司の下で働いている場合は、年を追うごとにリスクが減っていったという結果が得られています。因果関係は、はっきりとは分かりませんが、私が推測するに、出来が悪い上司の下でイライラすることによるストレスや、自律神経の乱れが影響していると思われます。

 職場の配置も病気の発症と大きく関わっていることを示す、重要な研究成果ではないでしょうか。能力のない上司の言動によって「肝を冷やす思い」をしたり、「命が縮む思い」をしたりすると、文字通り死期を早めてしまうかもしれません…。

 何事にも「歯を食いしばる」のは、体に非常に悪いことなのです。関節に負担がかかるので顎(がく)関節症になったり、歯にひびが入ったりして、虫歯や歯周病の原因になります。部分的に歯に強い圧がかかると、知覚過敏になる、歯並びが悪くなる、かみ合わせが悪くなる、ほうれい線が目立つようになる、えらが張って見える、筋肉が緊張して肩こりや頭痛の原因になるなど、これでもかというくらいデメリットがたくさんあります。

 東京医科歯科大学の小野繁教授によると、奥歯をかみしめる「かみしめ呑気(どんき)症候群」があるそうです。ストレスなどによって無意識のうちに奥歯をかみしめ、大量の空気を含んだ唾液を飲み込んでしまい、胃腸に空気がたまって先に挙げたような症状が現れるというのです。どうしてもリラックスできない人は、マウスピースを装着してみるのも、いいかもしれませんね。(おわり)

 ◆森田豊(もりた・ゆたか)1963年(昭38)6月18日、東京都生まれ。秋田大医学部、東大大学院医学系研究科修了。米ハーバード大専任講師を歴任。現役医師として活躍すると同時に、テレビではコメンテーターのほか、「ドクターX~外科医・大門未知子~」(テレビ朝日系)など人気番組の医療監修も数多く務める。著書は「今すぐ『それ』をやめなさい!」(すばる舎)「ダイエットはオーダーメイドしなさい!」(幻冬舎)「ねぎを首に巻くと風邪が治るか?」(角川SSC新書)など。気分転換は週2回のヨガ。