前立腺の病気といえば、ことに中高年男性には悩みの種。それでいて前立腺の構造や働き、病気の原因、治療など知られていないことも多いのが実情です。ここでは、日本大学医学部泌尿器科学系主任教授の高橋悟氏(59)が、前立腺肥大症、前立腺がん、ED(勃起障害)などについて、わかりやすく説明します。

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前立腺がんは進行すると、脊椎、肋骨(ろっこつ)、骨盤骨など骨に転移しやすい特徴があります。ここでは、骨転移した場合の治療について説明します。

骨転移では、神経が圧迫されて痛みが出たり、しびれやまひが起きて「生活の質(QOL)」を低下させるだけでなく、その部位の骨が弱くなり、骨折から寝たきりになる危険もあります。がんの進行を抑え、かつ転移を防ぐにはどうしたらいいでしょう。

骨へのがんの転移は「シンチグラフィー」で確認します。これは、放射性同位元素(ラジオアイソトープ)を注射して撮影。骨転移の状態を画像で確認するものです。がんが、転移している骨の放射性元素を多く取りこむ性質を利用した検査です。

まだ内分泌療法を受けていないときは、内分泌療法を開始させると、転移したがんが、小さくなるケースもあります。既に、内分泌療法を受けていて効果が上がらなくなって骨に転移した場合、「ビスホスホネート製剤」という薬を用います。これは、骨を破壊する細胞の働きを抑え、がんの進行を抑えるものです。この薬はもともと骨粗しょう症の薬のため、骨折防止などにも効果が期待できます。

また、「ランクル阻害薬(デノスマブ)」は骨を溶かす作用のあるランクルという物質の働きを抑える薬です。ほかにも外照射療法や「ストロンチウム89」「塩化ラジウム223」などの放射性物質を注射する療法もあります。

とはいえ、前立腺がんは治療の予後がよく、根治することの多いがんです。がんが前立腺内のみの場合、手術療法の10年生存率は約90%、放射線療法なら約80%です。ただ、気を付けるべきは、1度根治したかに見えて再発もあり得ること。チェックは腫瘍マーカーのPSAで行います。手術で前立腺を摘出した場合、PSAの数値は「0・2ナノグラム/ミリリットル」以下になります。その後、数値が上がった場合、再発の可能性を疑うことになります。手術後約2年間は3カ月に1度、その後3年間は半年に1度は受診し、PSA検査を受けることを勧めます。

◆高橋悟(たかはし・さとる)1961年(昭36)1月26日生まれ。日本大学医学部泌尿器科学系主任教授。85年群馬大学医学部卒。虎の門病院、都立駒込病院などを経て05年(平17)から現職。東大医学部泌尿器科助教授時代の03年、天皇(現上皇)陛下の前立腺がん手術を担当する医療チームの一員となる。趣味は釣り(千葉・飯岡沖の70センチ、3キロ超のヒラメが釣果自慢)と登山、仏像鑑賞。主な著書に「ウルトラ図解 前立腺の病気」(法研)「よくわかる前立腺の病気」(岩波アクティブ新書)「あきらめないで! 尿失禁はこうして治す」(こう書房)など。