前立腺の病気といえば、ことに中高年男性には悩みの種。それでいて前立腺の構造や働き、病気の原因、治療など知られていないことも多いのが実情です。ここでは、日本大学医学部泌尿器科学系主任教授の高橋悟氏(59)が、前立腺肥大症、前立腺がん、ED(勃起障害)などについて、わかりやすく説明します。

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「LOH(ロー)症候群」という症状が、注目されています。「Late Onset Hypogonadism」の頭文字を取ってこう呼ばれます。加齢による男性ホルモン(テストステロン)の低下に伴う諸症状のことで、「男性更年期障がい」とも呼ばれています。

症状として、筋力低下、骨粗しょう症、貧血、認知機能低下、メタボリック症候群、心血管疾患、抑うつ状態、疲労感に加え、性欲低下、ED(勃起障がい)が認められます。

日本での診断基準は、午前中に採血して測定する「遊離テストステロン」の値で決められます。8・5ピコグラム/ミリリットル未満を低値とし、8・5~11・8ピコグラム/ミリリットル未満が境界域となります。症状の質問票として「AMSスコア」があります。同スコアは精神、心理、身体、性機能に関わる17項目について、「なし=1点」「軽い=2点」「中等度=3点」「重い=4点」「非常に重い=5点」で採点します。

項目は、「総合的に調子が思わしくない」「関節や筋肉の痛み」「ひどい発汗」「睡眠の悩み」「よく眠くなる、しばしば疲れを感じる」「いらいらする」「神経質になった」「不安感」「身体の疲労や行動力の減退」「筋力の低下」「ゆうつな気分」「人生の山は通りすぎた、と感じる」「力尽きた、どん底にいると感じる」「ひげの伸びが遅くなった」「性的能力の衰え」「早期勃起の回数の減少」「性欲の低下」です。

合計点が26点以下なら「LOH症候群なし」、27~36点は「軽度」、37~49点は「中程度」、50点以上は「重度」となります。

患者さんの中には、「疲れやすく、眠れない」「セックスが弱くなった」「仕事に身が入らない」「死にたい気持ちだ」といった症状で心療内科にかかる人も多いのですが、診察したら「実は、LOH症候群だった」こともよくあります。

治療には、市販される男性ホルモンの塗り薬「グローミン」があり、これを毎日陰嚢(いんのう)にすりこみます。男性ホルモンの働きが悪い「性腺機能不全」と診断されれば、テストステロン注射剤を使用するクリニックもあります。

テストステロンを使うと前立腺がんのリスクが高くなる可能性、心血管系への副作用の懸念が完全に払拭(ふっしょく)されておらず、日本ではまだLOH症候群のためのホルモン補充剤はありません。残念ですが、女性の更年期障がいに使われる女性ホルモンほど、まだエビデンス(根拠)が蓄積されていないのです。(おわり)

◆高橋悟(たかはし・さとる)1961年(昭36)1月26日生まれ。日本大学医学部泌尿器科学系主任教授。85年群馬大学医学部卒。虎の門病院、都立駒込病院などを経て05年(平17)から現職。東大医学部泌尿器科助教授時代の03年、天皇(現上皇)陛下の前立腺がん手術を担当する医療チームの一員となる。趣味は釣り(千葉・飯岡沖の70センチ、3キロ超のヒラメが釣果自慢)と登山、仏像鑑賞。主な著書に「ウルトラ図解 前立腺の病気」(法研)「よくわかる前立腺の病気」(岩波アクティブ新書)「あきらめないで! 尿失禁はこうして治す」(こう書房)など。