北里大学北里研究所病院糖尿病センター長の山田悟氏が、「ウィズコロナ時代」のロカボ(緩やかな糖質制限)について解説します。ロカボの語源は「Low(低い) Carbohydrate(炭水化物などの糖質)」。新型コロナウイルスとの共生で新しい生活様式が求められる中、食事に気を付けながら、毎日楽しく食べて健康になりましょうと、勧めています。

  ◇    ◇    ◇

米保健福祉省と農務省は2015年の「食事摂取基準」で、初めて脂質を控えるべきという考え方を外しました。脂質摂取を減らしても意味はなく、油を増やすとかえって健康上のメリットが得られるとして、脂質摂取の上限を撤廃したのです。

米国心臓病学会の食事療法のガイドラインを書いているタフツ大のダニエル・モツァファリアン教授は15年版の「食事摂取基準」について「脂質摂取を控えても動脈硬化症の危険性を減らさないし、脂質摂取の制限は肥満症予防にならない。トランス脂肪酸以外の脂質を摂取する人は体脂肪を減らし、心疾患のリスクを軽減する」と解説しています。

私自身、昔は脂質の摂取を制限すれば、高脂血症が改善し、肥満は是正され、動脈硬化症も予防できると思っていました。しかし、認識の転換を促す臨床研究がいくつも発表されています。

イスラエルの研究グループは(1)脂質を制限したカロリー制限食(2)脂質はしっかり摂取するカロリー制限食(3)カロリー制限のない糖質制限食-を比較しました。最も体重が減少し、中性脂肪やHbA1c(糖尿病の管理指標)も落としたのは(3)で、次が(2)でした。(1)の脂質制限は体重が最も減らなかったばかりか、中性脂肪や糖尿病の改善にもつながらなかったのです。

日本でもJACCスタディー(文科省科学研究費大規模コホート研究)やJPHCスタディー(国立がん研究センター、国立循環器研究センターなどの共同研究)で、動物性脂肪の摂取と脳卒中は負の相関で、食べる量が多い方が脳出血や脳梗塞の発症リスクが低いことが分かったという研究が発表されています。

日本の「食事摂取基準」は依然、脂質を制限しています。しかし、世界の研究は積極的に摂取しなさいと伝えています。