どうして歯を磨くのかと考えると、多くの方は「口をさっぱりさせたい」とか「汚いとなんとなく気持ちが悪い」という感覚が先に立って行動していると思います。歯が欠けるなどの異変が起きた、あるいは鋭い痛み等の違和感を覚えなければ歯科医院へは行かないのが日本人だと言われてきました。

エマージェンシーが無ければ積極的に足を運びたいと思わないのが普通、当然オーラルケアも軽視されがちです。ところがこの20年あまりで、時代は急速に変化しています。歯周病と全身のかかわりが取り沙汰されてからというもの「将来○○にならないために歯を磨く」といった具体的な目標を掲げたヘルスプロモーションが盛んになってきました。なかでも特に、口腔(こうくう)との相関を尋ねられる機会が多い病気のひとつが「アルツハイマー型認知症」です。脳の働きが少しずつ低下する病気の総称を「認知症」と呼び、その中でアルツハイマー型が約6~7割を占めます。判断力や理解力をはじめ、生活の自立に直結する疾患のため、誰もが予防したいと考えて当然です。とはいえ口の中と頭の中で起きている現象のメカニズムがつかみづらく、実際にそこを意識できている人はまだまだ少ないはずです。

アルツハイマー予防のために最初に取り組むべきは「歯周病の予防および改善」です。口のケアがおろそかで磨き残しが蓄積すると、炎症性サイトカイン(TNF-αやIL-6など)と呼ばれる物質が局所で作られます。体が歯周病菌を異物と認識するからこそ起きる反応で、細菌を排除するための正常な働きです。ただこの状態が延々続くと厄介です。炎症性サイトカインが歯ぐきの毛細血管から血流を介して脳に到達、神経炎症を起こす可能性があるのです。また、アルツハイマーの主要病態である「アミロイドβの沈着」を促進すると言われています。