80歳で20本の歯を保とうという「8020運動」は平成の時代にかなり浸透しました。
日本歯科医師会と厚生労働省が中心となり、歯の本数と食生活の相関を見た調査結果がベースになっています。さまざまな研究で、高齢になっても歯が20本以上残っている人は大抵の食品を不自由なく噛めることが明らかだったからです。
食事は、生命活動の根底を支えています。熱帯魚の入った水槽があるスナックに時々行くのですが、元気がない魚は表情も食欲も乏しく、次に訪れた時にはいなくなっていることも少なくありません。人間も同じで、年を重ねてもしっかり食べられる人は元気はつらつだという事実を再確認します。
現代日本では、自分の足で立って歩ける、すなわち自立した老後を送れる高齢者を増やす働きかけが盛んです。健康寿命を延ばすことは、医療・介護費の抑制に直結する最重要課題だからです。食べたり飲んだり話したりといった口腔(こうくう)機能の維持は栄養状態を良好にし、虚弱(フレイル)を防ぎます。このためにはやはり、歯の本数がキーになります。
「噛む」ことは脳の海馬(記憶をつかさどる分野)への血流や刺激を保つため、残っている本数が多い人ほど認知症になりにくいという疫学データは多数積み上げられています。アメリカの研究でも、歯を失った人はアルツハイマー型認知症のリスクが高いと報告されており、世界的にも常識になりつつある知見といえます。
歯を失う原因の第1位は「歯周病」。歯周病による慢性炎症が、脳へボディーブローのごとくダメージを与えることも、アルツハイマー発症で触れられている部分です。脳を守りたければまず口を守るという意識が、健康寿命を数年でも長くするための第1歩です。日々のセルフケアを充実させること、そして目的やテクニックを見誤らないための定期的な歯科受診は欠かさないようにしましょう。

