超高齢社会の今、歯を長く保つことは健康寿命に直結します。健やかに生きるためには日々の食事が大切で、弱った抵抗力を補うためにも、口からとる栄養素をしっかり確保する必要があります。とはいえ歯を失うことは決して珍しいことではなく、ある程度の年齢になれば誰にでも起こりうる現象です。
治療に使う材料や診断技術がまだまだ乏しかった昭和の時代は「痛くなったら抜く」治療がスタンダードでした。やけに歯がきれいだなと思っていた親戚のおじさんが実は総入れ歯で、カパッと外した姿を幼少期に見せられて驚き、感動のあまり歯科医師を志したという同業者もいました。
失われた部分を補うために、私たち歯科医師は歯科技工士(DT=Dental Technician)の力を借りて治療します。歯科医療に携わるスタッフのうち、国家資格を有するのは歯科衛生士(DH=Dental Hygienist)とDTだけです。
診療中に現れる機会が少ないので存在を知らない患者さんも多いのですが、歯や顎を失っても「食べる」「話す」「飲む」という口腔(こうくう)機能が回復できている理由は、ひとえにDTの力に他なりません。歯型を再現しただけの模型上で顎の動きや顔貌を予測しつつ装置を作り上げる、まさに神業を持つプロフェッショナル集団です。
国民皆保険制度がある日本では、物価や仕入れ値を考慮し保険点数を細かく調整することが困難です。DTが素晴らしい装置を作ったとしても、それに見合った適切な診療報酬が設定されなければリターンがない。このためDTを志す若者の数も大幅に減少、資格を取ったにもかかわらず離職する人が多いなど、歯科医療の裏側には厳しい現実があります。
早くも地方では「入れ歯難民」といった言葉がはやり始めています。国の積極的な介入がなければ、路頭に迷うのは皆さんです。生命を維持するために欠かせない技術を、しっかり守れる時代になればと願っています。(おわり)
◆お知らせ 次回の健康連載は「がんだけじゃない、感染症や誤嚥でも命に関わる~肺を守ろう!」です。医療ジャーナリスト安達純子さんが担当します。ご期待ください。

