【アナハイム(米カリフォルニア州)20日(日本時間21日)=斎藤庸裕】マリナーズ菊池雄星投手(27)がエンゼルス戦に先発し、5回10安打4失点でメジャー初勝利を挙げた。

序盤から毎回走者を背負う苦しい投球で今季最多の97球。3月末に亡くなった天国の父雄治さん(享年59)へ、夢舞台での1勝を届けた。デビュー戦から先発6試合目の初勝利は95年野茂に次いで2番目に遅かったが、苦労がついに報われた。

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さまざまな感情が菊池を包んだ。苦しみ、もがいてつかんだ1勝。「ほっとしている」。安堵(あんど)感が全身に漂った。柔らかい、優しそうな表情で一生に1度の節目を振り返る。「みんなに支えられて、勝つことができました」と感謝した。クラブハウスでは仲間から祝福のビールをいっぱいに浴び「本当にうれしい」と喜びを一身に感じた。

メジャー初勝利を雄治さんに届けたかった。「一番アメリカに来ることを喜んでくれた。早く勝って、報告したい」と思っていた。死去にも日本へ帰国せず、プレー続行を決意。哀しみを胸にしまった。だが「まだ直接お墓にも行けていない中で、何かこう、まだ会えるんじゃないかという気持ちもどこかにあって、実感がない」と受け入れられずにいた。

父も願った白星を励みに戦ったが、3週間勝てなかった。「こうやって苦しんだ分、喜びも大きい。まだまだシーズンは長いので、トータルで活躍する姿を報告したい。最高の父親でしたし、いい報告ができると思う」とかみしめた。

最後まで1つ勝つ大変さを知った。この日が「6試合目で一番苦しい内容だった」。毎回安打を浴び、3回以降に失点を重ねた。1点リードの5回2死三塁では制球を乱し、3ボール。球数から四球を出せば交代という場面に「絶対に5回を投げきって、バトンを渡したい」と力を振り絞った。97球目はこの日最速の95・8マイル(約154・4キロ)の直球。全力で振った腕が反動で後方へ戻るほどの勢いで、遊ゴロに抑えた。

イチロー氏の引退で号泣した初登板から1カ月。「もっと経った気がしますけど、まだ1カ月か…という感じ」と笑った。力投しても逆転され、白星が遠かった。「15歳でこっち(メジャー)でプレーしたいと思ってから12年目。ここからスタートという気持ちになる1勝」。今夏には瑠美夫人がシアトルで出産予定。雄星自身が父となる。父と長年の思いを結実させ、新たな親子物語が始まる。