アメリカではコロナ禍以降、万引や強盗が社会問題になっており、閉店に追い込まれる小売店も出ています。昨年末に小売り大手ウォルマートのマクミロンCEOが、万引がかつてないほど増えており、減らなければ店舗の閉鎖や値上げの可能性もあると述べたことが大きな話題となりましたが、サンフランシスコでは万引による経営悪化で閉店するドラッグストアが相次いでいることも伝えられています。

蓋部分に盗難防止のプラスチックが被せられて売られているアルコール
蓋部分に盗難防止のプラスチックが被せられて売られているアルコール

万引と言っても店員の目を盗んで商品をバッグなどにこっそりと隠す日本で一般的に想像されるものとは異なり、ショッピングカートに次々と品物を放り込んで堂々と会計を済まさず外に出る、持参した大きなゴミ袋に商品を詰め込んでそのまま走り去る、両手でブランド物の服やバッグを大量に抱えて逃げるなど、もはや万引とは言えないような行為が頻発しています。筆者も店から逃げる客を店員が遠目から見て文句を言っているのを見かけたことがありますが、店側も周囲の客も見て見ぬふりをすることがほとんどです。

なぜそんなことがまかり通るのかと言うと、刑務所の投獄率が高かったカリフォルニア州では刑務所が過密状態で囚人が劣悪な環境にあることを理由に投獄人数を減らす法律が2014年に住民投票で可決されたことにあります。これによって物理的な暴行で被害者を直接傷つけない限り軽犯罪または微罪となることが決まり、盗んだ物が950ドル以下であればたとえ逮捕・起訴されても刑務所送りとなる可能性は低く、万引が半ば黙認されるようになったのです。加えて銃社会のアメリカでは、仮に万引犯が銃を持っていれば従業員の命に危険が及ぶ可能性もあるため、うかつに万引をやめさせることもできないという事情もあります。警察も急増する万引や窃盗全てに対処するのは難しいため、結果として店側は950ドル以上の高額商品が盗まれない限りは通報もできないというジレンマを抱えています。

アルコール類は、セキュリティーカメラで録画されているとの警告文と共に鍵付きのガラスケースで販売されています
アルコール類は、セキュリティーカメラで録画されているとの警告文と共に鍵付きのガラスケースで販売されています

しかし、安価な商品でも塵も積もれば山となるため、万引を黙認し続けることはできないと店側も万引防止策を講じ始めています。ニューヨークのドラッグストアでスパムの缶が盗難防止の鍵付きセキュリティーケースに入れられて販売されていることがSNSで拡散され、ニュースでも取り上げられて話題になりましたが、ロサンゼルス(LA)のスーパーやドラッグストアでも最近は「こんなものまで?」と目を疑う日用品やアルコールがセキュリティーケースで保護されています。LAのスーパーマーケットでは以前から高級ワインやウイスキー、ブランデーには鍵付きのプラスチックケースが被せられていましたが、最近では乾電池に鍵が取り付けられていたり、洗剤やシャンプーにもセキュリティー対策が講じられるようになっています。

SNSで拡散されて話題になったプラスチックケース入りのスパムの投稿(ツイッターの画面より)
SNSで拡散されて話題になったプラスチックケース入りのスパムの投稿(ツイッターの画面より)

アルコール類の万引がコロナ禍以降増えているためか、アルコールの棚全体が鍵付きのケースになっている店舗も出ています。欲しい商品がある時は店員を呼んで鍵を開けてもらわなければならないのでかなり不便ですが、近所のドラッグストアでは18ドルほどの洗濯洗剤まで鍵付きケースの中に入れられていてびっくりしました。洗濯洗剤でさえ欲しい時にぱっと手に取って買えない時代になったのかと悲しくなってきましたが、ただでさえも人出不足で忙しい小売業界で洗剤1つのために従業員が度々客に呼ばれるのだと思うと不憫でなりません。

洗濯洗剤も鍵がついたケースで保護されています
洗濯洗剤も鍵がついたケースで保護されています

店側にとっては苦肉の策であるものの、プラスチックケースごと盗んで壊せば問題がないと考える人も多いようで、なら一層全ての商品を鍵付きのケースで陳列するしか方法がないと思う気持ちも分からなくはありません。このいたちごっこはどこまで続くのでしょう。(米ロサンゼルスから千歳香奈子。ニッカンスポーツ・コム「ラララ西海岸」、写真も)