厚生労働省が発表した2023年の日本人の平均寿命は、女性87・14歳、男性が81・09歳。新型コロナウイルス感染症によって亡くなる人が増加した2021年と22年は、2年連続で前年よりも平均寿命が下回っていましたが、3年ぶりに延びた結果となりました。女性は39年連続世界1位であり、男性も5位という世界トップクラスの長寿国です。
日本人が長寿である理由として挙げられるのは、伝統的な食文化や医療レベルの高さに加え、「国民皆保険制度」という仕組みがある点です。医療費が比較的安価であるため、病院にかかりやすい環境にあります。しかしながら日々臨床の現場で感じるのは、こうしたメリットがあるが故に、患者さん側に「予防」を重視する慣習がないという矛盾です。外れた、痛くなった等の症状が出てからの治療は、歯を大きく削ったり、歯自体を残せないリスクが増えます。定期的な観察をしていれば最小限で防げるということは言うまでもありません。
個人が民間の保険会社に加入する制度のアメリカでは、歯科医療保険が特に高額です。各歯科医師が専門とする分野をもとに細分化され、質の高い治療が受けられるのですが、その分費用もかさみます。逆を言えば、経済的に厳しい場合は歯を抜くしかないという選択も出てくるわけです。アメリカ疾病予防管理センター(CDC)のホームページには、65歳以上で1本も歯が残っていない無歯顎者の割合が約4分の1を占めると記載されています。わが国では1割程度と言われており、大きな隔たりがあります。メディアの取材で「日本はオーラルケアに対する意識が低い歯科後進国なのか」と聞かれることが多々ありますが、国の制度自体は決してそうではないはずです。通算6回目になる本連載では、100歳まで健康で長生きするためのオーラルケアのヒントや、医療機関との付き合い方など、生活に即した情報をお伝えしていきます。
◆照山裕子(てるやま・ゆうこ)歯学博士、東京医科歯科大学非常勤講師(顎顔面補綴=ほてつ=外来)。複数のクリニックで診療を行う傍ら、「口腔(こうくう)ケアの伝道師」としてメディアにも多数出演の人気歯科医。「“食べる力”を落とさない!新しい『歯』のトリセツ」(日経BP)「口の強化書」(アスコム)ほか著書多数。

