「スルメをかんで歯を鍛えなさい」といった話を小さい頃に聞いた昭和世代の方は、食品に関して誤った認識を持っていることが多いです。硬いもので歯が強くなるという都市伝説は根強く伝えられており、年に数回はこうした間違いによって歯を割ってしまった患者さんに遭遇します。かむという動作で歯自体が丈夫になるという根拠はなく、高齢になればなるほど危険な行為です。
永久歯は6歳前後から生え替わりはじめ、中学に上がる頃にはすべての歯がそろいます。そこから何十年も咀嚼(そしゃく)を支えているのが、歯の硬い部分です。負荷をかけ続けるほど亀裂や破折の原因になります。
かんで鍛えられるのは、筋肉を使った「口腔(こうくう)機能」の部分です。歯に強い力を与えるのではなく、長くゆっくりかむことがトレーニングになります。唾液を分泌させたり、舌の筋肉を強化して誤嚥(ごえん)を防いだりという効果を期待するものです。ガムやグミなど、歯ごたえのあるおやつを使う方法が安全です。
「歯を硬くするためにカルシウムをとっている」という勘違いも多いのですが、成長期と違って成人ではすでにエナメル質が完成しています。唾液中のミネラルバランスを整え、歯表面の再石灰化に貢献する可能性はありますが、歯自体が硬くなるわけではありません。また、カルシウムはビタミンDが活性化して初めて腸から吸収されます。卵や小魚など、食品からバランスよく摂取する心がけも大切です。
食後にチーズを食べると唾液中のカルシウム濃度が上がり、酸性に傾いたpHを中性に戻す効果があるといわれています。このため、なんとなく「乳製品が歯に良い」という思い込みも広まっています。ヨーグルトドリンクなどには確かにカルシウムも含まれますが、糖質過多ではむしろ歯の脱灰が進みます。就寝前の1瓶は特に危険ですので、十分に注意しましょう。

