２０年東京五輪で３大会ぶりに競技復活する「野球」で、金メダルを獲得するためには。世界一奪還を目指した今春のワールド・ベースボール・クラシック（ＷＢＣ）は準決勝で米国に敗退。ともに０８年北京五輪代表の日刊スポーツ評論家、宮本慎也氏（４６）と里崎智也氏（４１）が、東京五輪に期待することや野球界の問題、未来について語り合った。【取材・構成＝小島信行、竹内智信、前田祐輔】
- 野球界の未来について意見を交わした里崎氏（下）と宮本氏（撮影・浅見桂子）
●ＷＢＣはプロで、五輪はアマチュアというのは理想
今春のＷＢＣは準決勝で米国に１―２で敗退。米国投手陣が操る１５０キロを超えて、手元で動くボールに打線が苦しみ、点差以上の力量差を感じた。
宮本 １５０キロを超えて、あれだけ球が動いていたら「打てよ」なんて思わない。見ていても「打てねえよな、これは」みたいな。
里崎 僕はセーフティーバントとか、何でもっとしないのかって思ったんです。天然芝でボールの勢いが死ぬから、イチローさんとか青木だってよくする。第１回の時も、（西岡）剛とか岩村とかやってた。
宮本 今の段階ではそういうのしかないよね。このままじゃ勝てない。３月は、大リーガーもまだ仕上がってない選手がいる。アメリカで議論があるみたいだけど、ＷＢＣが８月開催になって、調整万全のメジャーリーガーとやるなら、本当に無理だよ。日本が勝ちたいなら３月開催のままの方がいい。
今春のＷＢＣに出場した日本人大リーガーはアストロズ青木だけ。大リーガーの招集問題は大きな課題だが、過去の五輪に大リーガーが出場したことはない。８月開催の東京五輪も大リーグはシーズン中のため、出場は極めて難しい。一方で日本はシーズンを中断して、全面協力する。
里崎 根本的に国際サッカー連盟（ＦＩＦＡ）みたいなのを作らないと大リーガーの出場は無理。僕は日本はへりくだってもいいから、メジャーの組織中心に大きなピラミッドをつくる以外ないと思う。そうしないと、ボールの規格とか、何もそろわない。
宮本 オリンピックはメジャーは出ないわけでしょ。だからＷＢＣに比べて、金メダル取る確率は高いよね。
里崎 サッカーと同じように、Ｕ－２３（２３歳以下）でいいんじゃないですか。
宮本 だけど、それじゃ五輪は終わっちゃう。ＷＢＣはプロで、五輪はアマチュアというのは理想。ずっと大会があるというならね。だけど今回、じゃあアマチュアでいきましょうとなったら、入るはずのお客さんも入らなくなる。盛り下がって、負けて、となったら…。
●メジャーが出ないと存続の意義は半減
里崎 結局メジャーが出ないと、存続の意義は半減する。それなら年齢制限でもいいと思う。あとは…僕は綱引きを復活させるべきだと思うんです。オリンピック精神の大前提は、全世界の人が平等にできること。綱が１本あったら、アフリカの人たちもできる。階級別とかで男女でやったら、全世界いける。
宮本 綱引きは面白そう。
里崎 相撲もね。全世界の人ができる。綱引きと相撲は僕のイチオシ。オリンピック精神にすごくなじんでいると思うんですよね。
野球・ソフトボールの復活は、東京五輪だから実現した。次回大会以降も正式種目として残るために、世界的な普及、試合時間短縮…など課題は多い。
里崎 難しいですもん。ルールも。道具だってお金掛かるし。大きい場所と人数もいるから。
宮本 （２４年五輪が）パリだったら難しい。ロサンゼルスなら可能性はあるかもしれない。
里崎 野球はインドが強くなるんじゃないかと思うんです。クリケットの強いところは、投げる、捕るが基本ベースにあるから。
宮本 トッププレーヤーは年俸３０億ぐらいもらう。クリケットの選手は、野球は甘いと言う。あの硬いボールを素手で守るから。「野球はグローブ持っているだろう」って言うんだって。
里崎 存続させるためには、日本だけが頑張っても無理ですよね。世界的な協力がないと。韓国、アメリカ、中南米とか、どれだけ本気でオリンピックに野球を存続させたいか。
野球が盛んではない国でも行われる大会は困難が伴う。
里崎 北京では前の試合が遅れたから急に３０分後に試合とか、朝９時からの試合もあった。宿舎も選手村の方が良かったです。外に食べに行ったら、ステロイドとか、何を入れられるか分からないからって、全然ホテルから出られなかった。
宮本 選手村、大変だぞ。３ＬＤＫの部屋に６人で、１部屋に２人。やだよ里崎と一緒だったら。
里崎 僕は慎也さんと一緒で全然いいです（笑い）。
●まず日本の組織が一体化して動かないと
海外での野球の普及が必要なのと同時に、日本の野球のレベルアップも図りたい。
宮本 まずは日本の野球の組織が本当に一体化して動かないと。まずそっち。オリンピックも大事だけど、野球界の壁。小さな壁、いっぱいあるでしょ。見たことある？ 連盟の組織図。めちゃくちゃあるから。
里崎 学生野球資格を回復した元プロは、高校生や大学生も指導できるけど、すべてがフリーじゃない。
宮本 エントリーして、声が掛かって、初めて学校に行って教えられる。学校に行かないとだめ。厳密に言ったら、自分の子供に教えるのもだめだから。
里崎 野球の普及とか子どもたちのためとか言うのに、そこがだめって。何のためって感じはします。
宮本 ビヨンド（小中学生の軟式用バット）いくらか知っている？
里崎 ４万円か５万円ぐらい。
宮本 そう。小学生の一番軽いやつで３万円ぐらい。野球はお金が掛かる。高校では、スパイクとかメーカーが見えないように黒じゃないとだめでしょ。見えるようにすれば宣伝になるから供給するメーカーが出てきて、安くなるかもしれない。
里崎 癒着ができるからさせないんじゃないですか。学校とメーカーとかの。
宮本 別にそれでもいいと思う。そこの学校に行ったら道具にあまりお金が掛からないとかいうふうになれば。その代わり、供給されたものはちゃんと申告する。やり過ぎのところは、派手にやり過ぎるなと注意があってもいい。
高校生が使用する金属バットは０１年から、９００グラム以上と規定されている。
宮本 プロだって今は（ソフトバンク）柳田とかが８８０グラムで、軽いのが主流。高校１年生なんて、そんな重いバット振れない。振れないから８２センチとか短いバットを使う。バットが短くなると技術は上がらない。僕らの時は８４センチが一番短いぐらいだった。
里崎 ８５センチが普通。
宮本 ホームラン打てるいいバッターは８６センチだった。今の高校生が使う短くてバランスが根元にあるバットだとヘッドを利かせて打てない。いいバッターなんて育たなくなる。最近高校生のバッターは、プロに入って活躍するまですごく時間がかかるようになった。そういう規定から変えないと。
侍ジャパンの強化のためには、若い世代の強化、底上げが欠かせない。
里崎 でも東京五輪は勝てますよ！ ＷＢＣも紙一重でしたから。メジャーが出なくても、日本は今回のＷＢＣのメンバーとほとんど変わらない。あとは全球団が金メダルを取るために協力態勢を敷く。未来の子どもたち、野球人気のため、やれるかどうかが勝負。
宮本 そのためにも、組織を１つにした方がいい。
●五輪に出たくない選手は公表した方がいい
里崎 五輪に出たくない選手は公表した方がいいですよ。本人は出たいけど球団がダメなパターン、球団はいいと言っているけど本人がダメなパターンとか、全部公表すればいい。
宮本 今までは、それがすべて水面下だったもんな。
里崎 監督もかわいそう。なんであいつ呼ばないんだと言われても、呼んだのに…と公言できなかった。非公表にする理由がない。
宮本 本当、そうだね。
里崎 ケガが原因なら診断書を出させる。出場を拒否したら、オールスターと同じように、何日間か公式戦の出場停止とか、細かいルールをつくった方がいい。
宮本 国際試合は、やってみないと分からない。絶対に勝てるから、監督やってくれって言われたらどうする？
里崎 いいですよ。日本の野球は世界基準だから勝てますって言い切ります。やりたくても代表監督なんて出来ないので。それで負けて仕事が無くなったら、南国に行って石垣島で子どもたちと戯れます（笑い）。
宮本 子供もすくすく育つな（笑い）。
- 野球への提言を色紙に記した里崎智也氏（左）と宮本慎也氏
（２０１７年６月７日付本紙掲載）
