令和メダル日本人1号は誰だ!20年東京大会は元号が替わって迎える初めての五輪。そこで誰よりも早くメダルを胸に掲げるアスリートを予想した。メダルをかけた戦いは大会第2日の7月25日にスタートする。この日に行われる競技で有力は重量挙げ女子49キロ級の三宅宏実(33=いちご)。64年大会ではメダル1号が同競技の一ノ関史郎、金メダル1号は伯父の義信だった縁を持つ。“4度目の正直”を狙うライフル射撃の松田知幸(43)、平成から第1号の代名詞となった柔道なども候補となりそうだ。


リオ五輪重量挙げ女子48キロ級銅メダルの三宅宏実
リオ五輪重量挙げ女子48キロ級銅メダルの三宅宏実

重量挙げ界、三宅家とを56年の時を経てつなぐ不思議な縁を聞くと、宏実はうなった。

「恐れ多いですが、もう1回花を咲かせたいですね。面白いです」。


64年東京五輪メダル第1号は、重量挙げバンタム級銅メダルの一ノ関史郎
64年東京五輪メダル第1号は、重量挙げバンタム級銅メダルの一ノ関史郎

渋谷公会堂、64年10月11日。開会式翌日、金メダル1号を見ようと集まった観客2000人。バンタム級の一ノ関は「満員なんて初めて。肩に力が入り、夢中になりすぎた。魔物がいた」と回顧する。普段通りの力は出せず銅メダル。ただ、しばしの落胆は、表彰式で上る日の丸に救われたという。「重量挙げが1号と言われていたから。使命感はあったので、3位でも価値はあったと思う」。

一説には金有力の重量挙げを日程の前半に持ってきて、日本選手団を勢いづける狙いがあったと聞く。思惑が当たったのは翌12日、フェザー級の義信だった。保持した世界記録を大一番でも更新する堂々の優勝で「自分がやらねば誰がやる、の気持ちだった」という大役で母国五輪の金メダル1号を手にした。増す勢いに、最終的には7人全員が入賞。一気に重量挙げ大国の地位を築き、以降の昭和期はメダル1号を連発した。68年は宏実の父義行がメダル1号、義信は2大会連続の金メダル1号となった。


三宅宏実と父義行氏(左)、叔父義信氏(右)
三宅宏実と父義行氏(左)、叔父義信氏(右)

平成の世に変わると、柔道が主役となった。谷亮子の出現が、日程後半だった柔道を前半に変えさせたとの説もある。開会式翌日に軽量級からよーいドン。結果、92年バルセロナ大会以降は7大会中6大会で柔道家がメダル1号に。重量挙げの低迷も重なり、昭和の勢いが陰った。

そんな歴史をひもとき、宏実は言う。「ロサンゼルスから長い空白がありましたね。でも、ロンドンとリオと何とかつないでこられた」。12年は銀、16年は銅。日程のあやで柔道に1番手は譲ったが、継承者として踏ん張った。そして、2度目の東京。五輪の神様が三宅家にほほ笑むような好機が訪れた。女子49キロ級の終了時間は午後3時。柔道よりも早い。日頃の練習時間から午後が最も体が動き、自ら「ゴールデンタイム」と表現する。リオ五輪前から抱える腰痛で体調は万全ではないが、4月下旬のアジア選手権では久々の好記録に手応えもある。

先人の期待も大きい。一ノ関はあの重圧を知るからこそ「私と同じような思いになるかも。でも、宏実なら大丈夫。やりがいと思うのでは」と“雪辱”を託す。義信は「いまは苦しんでいるが、二度あることは三度あるよ」と一発の爆発力を推す。

令和での復権へ。「歴史を途絶えさせず、次世代につなげたい」。エールをその背中に受け、宏実は巡ってきた縁に思いを新たにしている。(敬称略)【阿部健吾】

◆三宅宏実(みやけ・ひろみ)1985年(昭60)11月18日、埼玉・新座市生まれ。新座二中3年で競技を始める。埼玉栄高3年時の03年に53キロ級で全日本選手権制覇。06年世界選手権銅メダル。12年ロンドン五輪銀メダル、16年リオデジャネイロ五輪銅メダル。プロ野球でバース(阪神)落合博満(ロッテ)が3冠王に輝いた年に生まれたため、うかんむりが3つ並ぶ「三宅宏実」と名付けられた。147センチ。


2020年7月25日の有力競技スケジュール
2020年7月25日の有力競技スケジュール

■射撃・松田知幸4度目の正直

松田は射撃の普及のため、メダルを渇望する。

「日本開催で注目も大きくなる。結果を残し、射撃の普及、発展にも一役を買いたい。それが自分の使命だと思う。結果はどうなるか分からないが、1年間、やれることをやりたい」

過去3大会の五輪も大会序盤に競技があり、メダル第1号を期待されたが、08年北京、12年ロンドン、16年リオデジャネイロとも力を発揮できず予選落ちだった。“4度目の正直”となる東京も最初のメダリストとなるチャンスは十分だ。男子10メートルエアピストルの決勝、表彰式の終了予定時間は午後4時30分で重量挙げ女子49キロ級に次いで早い。令和最初のメダリストとなれば、そのインパクトは大きい。17年10月のW杯では241・8点の世界新記録を樹立したが「三宅さんの方がメダルの可能性は高いかもしれないですけど」と謙遜し「第2号でもいい。射撃がピックアップされることが大切。ただ第1号になったら、扱いは大きくなりますよね」と笑った。


射撃男子の松田知幸
射撃男子の松田知幸

10メートルエアピストルは10メートル先にある的を撃ち抜く。最高得点となる10点の円の中心は直径1・1センチほど。パチンコ玉とほぼ同じ大きさだ。極限の集中を保ち、1時間15分以内に60発を撃つ。「究極のメンタルスポーツ」と言われ、一般的には「筋力は必要ない」とされる。ただ松田はリオ以降、ウエートにも力を入れる。週2回取り組み、体重もリオ時から5キロ増の75キロとなり、体の厚みも増した。

「銃は1キロほどしかないですけど、100回ぐらい同じ位置に構え、腕を止めておく。やっぱりそれなりの筋力があった方がいいと感じた。また射撃は努力が結果に結びつきにくい。だけど、努力をしないと絶対に結果が生まれない。筋トレは『努力=結果』という方程式を体験できる。努力は正しいんだと脳に伝達するために筋トレをしている」。今度こそメダルを外さない。【上田悠太】


■柔道

ここ4大会、日本人メダル第1号を輩出している柔道は大会第2日に男子60キロ級と女子48キロ級が行われる。男子の代表争いは、リオ五輪銅メダルで世界選手権2連覇の高藤直寿が1歩リード。昨年の世界選手権準決勝で高藤に敗れて以降、負けなしの永山竜樹が2番手で猛追する。女子は、17年世界女王の渡名喜風南が先頭を走る。


■アーチェリー

五輪初採用の男女1人ずつのペアで行う混合団体の代表は、18年ジャカルタ・アジア大会で初代優勝を飾った12年ロンドン五輪個人銀メダルの古川高晴と杉本智美ペアが最有力候補。強豪の韓国が大本命だが、メダル獲得の可能性は十分にある。


■フェンシング

男子サーブルの代表争いは徳南堅太がリードする。昨季は全日本選手権で優勝するなど、国内ランク1位。16年リオ五輪出場と経験豊富な31歳が、2大会連続の五輪出場と悲願のメダル獲得を狙う。女子エペは近代5種と“二刀流”の才藤歩夢に注目。


■テコンドー

女子49キロ級は13年世界選手権でベスト8に入り、日本選手権は3連覇中の山田美諭が代表の有力候補に挙げられる。左の蹴り技のコンビネーションが光る。男子58キロ級は鈴木セルヒオが昨夏のアジア大会で銅メダルを獲得した。


■自転車

ロードは、武蔵野の森公園から富士スピードウェイまでの長距離で、標高差が激しい難易度の高いコース。男子はプロでもまれている08年北京、12年ロンドン五輪代表の別府史之、ロンドン、16年リオデジャネイロ五輪代表の新城幸也の2人に期待がかかる。