東京オリンピック(五輪)公式アートポスターとして漫画「あなたの出番です。」を書き下ろした、漫画家の浦沢直樹氏(60)が単独取材に応じた。浦沢氏は、世界に類を見ない日本のスポーツ漫画が世界で読まれ、アスリートが生まれ、育ったと強調。「日本の漫画、ここにあり」と力を込めた。【取材・構成=村上幸将】

自身の作品の前でインタビューに答える漫画家の浦沢直樹氏(撮影・丹羽敏通)
自身の作品の前でインタビューに答える漫画家の浦沢直樹氏(撮影・丹羽敏通)

-描いたのは陸上選手

浦沢氏 選手は何でもいいんです。男女の性別も、競技も特定できないように描きました。誰にでも当てはまるようにという気持ちでね。これから試合に向かっていく人の、気持ちが高まっていく瞬間かな、と。

-左下に書いた「つづく!」の意味は?

浦沢氏 日本の漫画は毎回、毎週、ページをめくってみんながワクワクする。(ページを)めくりたくなるのが日本の漫画。それが伝われば「日本の漫画、ここにあり」みたいな感じになるんじゃないかと。

-スポーツ漫画の読者は、競技場にいるかのような緊張感で次の週を待つ

浦沢氏 日本人は、それが普通という感じで暮らしていると思うんですが、世界的に見ると漫画でスポーツを見るのは不思議なことだと思う。それが世界に普及して「キャプテン翼」でサッカー選手が育ったとか、そういうことが起きている。世界に広がりだしているということですよね。

-「YAWARA!」も、またしかり

浦沢氏 女子柔道を広く知ってもらう力になれたんではないかと思いますね。スポーツ漫画を描いたことで、漫画から目指したアスリートも、すごく多くて。スポーツ漫画ってこういうことなんだよ、そこからアスリートが育ったんだよ、みたいなのが1枚から伝わればいいなと思います。そうやって、どんどん発信して、それが伝わっていくことが喜びですからね。

浦沢直樹氏が手掛けた東京2020公式アートポスター「あなたの出番です。」(Tokyo2020提供)
浦沢直樹氏が手掛けた東京2020公式アートポスター「あなたの出番です。」(Tokyo2020提供)

-谷亮子さんも愛読して金メダリストに

浦沢氏 僕ら漫画家は、妄想を紙にたたきつけて、それで(読者の)みんながワクワクしながら、本気になって実現させようとしてくれる。僕らはもとになる妄想を与えるみたいなところが、ありまして…そのもとを、良い形で出せたらいいなと。言ってしまえば、手塚治虫先生の未来社会を早く実現しなきゃ! と言って、やっているところがある。漫画家は、良い妄想を皆さんにお届けしなければいけないなと考えます。

-「つづく!」の先は「つづく!」のか?

浦沢氏 ははははっ! このポスターという1枚の画の中で、どういうふうに表現できるかな? ということでやっていたんですけど。ものすごい忙しいスケジュールで、いろいろな作品を描いていますのでね。体は1つですから。

-続きを要請されたら

浦沢氏 僕は自分の描きたいものしか描かないので。自分から湧いたら…今、描かなきゃ、生きているうちに描かなきゃ、と思ったら描きますけどね。

-五輪本大会中に、競技を見て湧くかも知れない

浦沢氏 それも、あるかもしれないですよね。

-五輪に期待すること

浦沢氏 無事、開催されて終わった時、みんながちゃんと笑顔で終われればいいなということですね。

-期待するメダル数

浦沢氏 そういうのは、いいですよ。取れたら、取れたで、うれしいけども、結果ですからね。思いっきりやれたら、いいんですよ、きっと。結果よりも、期待なんですよ。期待している時が一番、いいんです。

◆浦沢直樹(うらさわ・なおき)1960年(昭35)1月2日、東京都府中市生まれ。明星中、高をへて明星大人文学部経済学科を卒業。明星中時代は陸上部。1983年(昭58)、23歳で「BETA!!」で漫画家デビュー。代表作は「YAWARA!」(86年)「MASTERキートン」(88年)「MONSTER」(94年)「20世紀少年」(99年)。99年に「MONSTER」、05年に「PLUTO」で手塚治虫文化賞マンガ大賞など受賞多数。週刊漫画誌「ビッグコミックスピリッツ」(小学館)で18年から「連続漫画小説 あさドラ!」を連載。

◆五輪公式ポスター 20世紀初頭から、五輪各大会の組織委員会はスポーツと文化イベントである五輪の認知、理解の促進を目的にポスターを制作してきた。1896年(明29)の第1回アテネ大会ポスターといわれている絵には、スタジアムに立つ女神アテナらしき少女が描かれているが、公式報告書の表紙として描かれたものだという。

近年では、パラリンピックのポスターも含め、国際的に活躍するアーティストやデザイナーを起用し、各大会の文化的・芸術的レガシーとなる作品を制作するようになった。

東京五輪公式ポスターは浦沢氏、五輪とパラリンピックのエンブレムが採用された野老朝雄氏を含む国内外12人が制作。大会後に組織委員会の選定委員会が12作品の中から数点を選び、その中から国際オリンピック委員会(IOC)が大会を代表する1作品を選ぶ。