とある日の浜名湖ボート。場内を歩いていると「お久しぶりです」と、どこからともなく声が聞こえてきた。声の主は、新藤哲三さん(50)。名前を見て、ぴんときた来た方も多いのでは? そう、静岡支部でスロー水域主体の個性派レーサーとして鳴らした、あの新藤さんだ。実は、6月22日から浜名湖ボートの1階、アトリウムエリア内において、カフェスペース“CAFE BOAT”を営業している。
新藤さんは、92年5月に70期生として18歳でデビュー。18年8月の江戸川を最後に、カポックを脱いだ。約26年間のレーサー人生で903勝を挙げて、優勝も5度飾っている。
現役時代からスタイリッシュで、ボート界のファッションリーダーと言っても過言ではなかった新藤さん。第2の人生として、「いつか、やってみたい」と思っていた、カフェの経営に取り組んだ。周囲のサポートもあり、念願かなって20年4月に浜松市東区において“Cafe Soco(ソーコ)”をオープンさせた。
一国一城の主となり、これからという時に、思いがけない事態が…。そう、コロナ禍だ。平日にもかかわらず、オープン前に行列ができるほどだったのが、1日1組、さらにはお客さんがゼロという日もあったとか。その後も緊急事態宣言が出ている間は閑古鳥。明ければ盛況の繰り返し。「スタッフは定着しなかったし、もうけもほとんどなかったですね」と、振り返った。
そんな時、地域の広報紙を読んでいると“浜名湖ボートで店舗募集”の文字を見つけた。「元選手だし、駄目だと言われるかな」と期待半分、諦め半分でレース場を訪れたところ、予期せぬ答えが返ってきた。「逆に、選手の方が面白いし、プラスに働くんじゃないですか」。その後は、とんとん拍子に話が進んで出店が決まった。
オープンから約1カ月。オーナーとして、お客さんの動きを見ていると、ひとつのことに気づかされた。「みんな、楽しそう」。現役時代は選手紹介やトークショーなどのイベントで、ステージに上がる程度。場内のことなど、知るよしもなかった。それだけに、日々驚きの連続なんだとか。「老若男女、皆さんが楽しんでいる。ハッピーなオーラしか感じないです。また、朝の6時から場内を清掃されてる方がいらっしゃる。ファンや、そういう裏方さんがいてこそのボートレース。僕たちが走ることができるんだって、いまさらながら実感しました」。
今後の展望については、「飲食業だから、ゆくゆくは多店舗展開をしていきたい。でも、皆さんの楽しそうな雰囲気を見ていると、恩返しをしたいなって。約30年間、お世話になった業界に感謝の気持ちを持って、お返ししたいですね」。側面からボートレースを盛り上げていくつもりだ。読者の皆さんも、浜名湖にお越しの際はぜひ、立ち寄っていただき、コーヒーやスイーツを片手にレース観戦をしてもらえればと思う。
最後に、新藤さんと言えば、服部幸男(52=静岡)の一番弟子として知られている。師匠は浜松の店に来てくれるのかと聞いたところ、まだなのだとか。「お前が一人前になったらな、って言うんですよ。もう一人前と思うんだけどなあ」。そうこぼしつつも、人なつっこい笑顔は現役時代と全く変わらず。何となく、気持ちがほっこりとさせられた。【工藤浩伸】






























