「4日間よく歩いたな。ゴルフが好きになっただろう?」。ゴルフの全米オープン選手権が行われた米カリフォルニア州ペブルビーチ・ゴルフリンクスの18番ホールのスタンド裏で、青木功プロからねぎらいの言葉をかけていただいた。第1日から、記者は連日松山英樹(27=LEXUS)に18ホール付いて回った後に、本社コラム「青木功のグリーントーク」の取材をするのが日課になっていた。

毎日同じホールを18番まで回るのが、仕事とはいえ最初は苦行に思えた。しかし、回っていくうちに、海に面した美しい風景や、ギャラリーの人々の楽しそうな顔に、こちらも歩くのが楽しくなった。第3日には日本から来た老婦人に「ずっと松山さんに付いていらっしゃるのね。ご苦労さま」と声を掛けられた。そのご婦人とは最終日まで何度もお会いして、笑顔であいさつを交わした。

コースを回っているうちに、ギャラリーの歓声で、近くのコースでも、選手のショットの良しあしが分かるようになってきた。グリーンに乗っても、バーディーを狙えないほどカップまでの距離が長いと、拍手もない。いいショットをすれば誰であろうと大歓声が待っている。パットを外すと、スタンド中が自分のことのように悔しがる。「回っていると、ギャラリーの声で、上位の成績が分かったりするんだ」と青木プロも話していた。

コースの中では、6番ホールが好きだった。海に臨む崖沿いにつくられていて、第2打は海に突き出た岬のようなところにあるグリーンに打ち上げる。松山が最終日にダブルボギーを打ったコースだった。第1打を右の崖沿いのプレーできない場所に打ち込み、第2打もグリーン横の深いラフでペナルティー。海と風。大自然にあらがうようにプレーした松山は「海が怖かった」と思わず本音を漏らした。

本場米国で、しかもビッグゲームを初めて取材して、当たり前のことだろうが、ゴルフが文化として根付いていることを感じた。ギャラリーも楽しみ方は人それぞれ。家族でピクニックのように来ている人もいれば、誰かを応援に来ている人もいる。毎日最終組は午後7時ごろのホールアウトだったが、最後まで見ないで引き揚げる人も多数いた。初めての体験だったが、ゴルフの奥深いところにちょっとだけ触れた気がした。【桝田朗】

(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ピッチマーク」)