比喩表現ではなく、松山英樹(31=LEXUS)は本当に唇をかんでいた。日本で開催される唯一の米国男子ゴルフツアー、ZOZOチャンピオンシップ(千葉・習志野CC)に22日まで出場。昨年の同大会以来、1年ぶりの日本での試合出場だったが、通算5オーバー、285で51位に終わった。第1ラウンド終了時点の26位が、大会4日間を通じて最も高い順位だった。不本意な結果にも、プロとして、最終日に大会総括として取材に応じたが、悔しさを押し殺すのに必死な様子が伝わってきた。
冒頭で「大会を振り返って」という、毎試合のように受けてきた質問にも「何を振り返ればいいか分からないです」と答えた。次戦に向けた手応え、収穫があれば話もしやすいが、ホールアウト直後で、それを見いだせないほど。「ショットとパットの内容、ショートゲームの内容からしたら、この順位は仕方ないなという感じだし、練習して、いい感じではいましたが、試合になるとうまくできない。また、いろいろ考えて、やっていかないといけないなと思います」と、口調こそ冷静だが、自分自身に怒りを覚えているようだった。
1年ぶりとなった日本での試合とあって、余計に悔しさが募った。「4日間、いいところはほぼなかったですが、それでもたくさん応援してくれたので、すごくうれしかったですし、良いプレーがどこか出ればと思って最後までやっていたのですが、最後まで出なくて。次の試合は、しっかりと良いプレーができるようにしたいです」。日本のゴルフファンに喜んでもらい、ファン以外にもゴルフに興味を持ってもらうきっかけにしたい思いの強さが、にじみ出ていた。
ただ、全く収穫がない大会だったかといえば、それは違った。実は開幕前日の10月18日。松山は、プロアマ戦で一緒にラウンドした、競泳男子平泳ぎで04年アテネ、08年北京と五輪2大会連続2冠の北島康介氏(41)から金言を授かっていた。
規定で大会期間中は、プロアマ戦出場者については、たとえ本人が了承しても、写真でも記事でも一切触れてはいけなかった。大会後も、プロアマ戦出場者の写真は「使用NG」だが、本人の了承があれば記事としては露出して良いということだったので、北島氏から了承を得ていた松山と18ホール回った後のコメントを紹介する。
北島氏 「貴重な機会をいただきました。日本でのPGA(米男子ツアー)の盛り上げ役として注目されている中で、一緒に回らせていただいて光栄です。その中で、アスリート的な会話もさせてもらいました。松山選手からは『水泳はどうですか』とか聞かれました。こちらからは、いわゆるベテランになってからの話をしました。僕の場合は肩も肘も良くなかった。その中で競技を続けていくためには『体と対話しないといけない』という話です。アドバイスとはほど遠いですけど、僕も故障が増えた時期があったので。若い時と違って、自分の体と対話することが、これからは大事になってくると思う、といった話をさせていただきました」。
松山はZOZOチャンピオンシップが、2カ月ぶりの復帰戦だった。2カ月前、最後に出場したBMW選手権は、第2ラウンドのスタート前、背中を痛めて棄権していた。昨年1月のソニーオープンで勝って以降、2年近くも優勝から遠ざかっている。その間、背中や首などに痛みを訴え、棄権することも多くなった。競技は違えど、同じようにけがに苦しめられた、トップアスリートの言葉は、説得力があったに違いない。
「体と対話」。どの競技でも、ベテランと呼ばれるようになる30代になれば、疲労の回復は遅れ、痛む個所が増えてくるものだ。体のケアが一段と大切になるというのは当たり前。世界一を目指して、4年間でコンマ何秒を縮めるために、日々練習してきた北島氏にとっては、ほんのわずか、プル(手のかき)で水をキャッチする感覚の違い、キックで得られる推進力の違いがあるだけで気付く。その原因は何か-。疲労なのか、筋力が戻っていないのか、それとも衰えなのか。一方的に疲労などに決めつけるわけではなく「対話」、試行錯誤を繰り返すことで、自分の体をより深く知ることの大切さを訴えようとしていたのだろう。
記者は08年北京五輪の時、水泳担当をしていた。北島氏が江戸っ子気質、どこか照れ屋で、言葉足らずな性格や言動と知っているつもりだ。有名な「チョー気持ちいい」や「なんも言えねえ」などは、言葉足らずの典型だろう。「体と対話」というキーワードを、ちゃんと本人に言っていたかも、それこそ「アドバイスとはほど遠い」と、照れてしまって、言っていないのではないか、とさえ思っている。
一方で北島氏のどこか言葉足らずな言葉は、人を惹きつける魅力にも満ちている。明かしていない、別の金言もあっただろう。互いに、紛れもなく世界を相手に戦ってきた同士。松山の胸にも刺さるものがあったに違いない。松山は今年、国内ツアーのダンロップ・フェニックス(11月16~19日、宮崎・フェニックスCC)で、再び日本のファンの前でプレーする予定。北島氏の言葉をきっかけに、1カ月後、今度は唇をかむことなく、4日間を終えているかもしれない。【高田文太】(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ピッチマーク」)


