連載第4回は「東の聖地」埼玉県熊谷市。全国有数のラグビータウンとして知られるが、会場の県営熊谷ラグビー場までの観客輸送に「3つの課題」がある。県と試行錯誤しながら難題解決の糸口を探る、熊谷市の現状に迫った。

「待ち望んでいたワールドカップ(W杯)開催はうれしい一方、2万人規模の受け入れを経験したことがない不安もある」。熊谷市ラグビーW杯2019推進室長の島村英昭氏(57)は、こう胸中を打ち明けた。

W杯への熱い思いを語る熊谷市ラグビーW杯2019推進室長の島村英昭氏(撮影・峯岸佑樹)
W杯への熱い思いを語る熊谷市ラグビーW杯2019推進室長の島村英昭氏(撮影・峯岸佑樹)

熊谷ラグビー場では、19年9月24日のロシア戦など1次リーグ3試合が行われる。W杯仕様に観客席を従来の約3倍の2万4000席に増設するなど約124億円かけて改修した。試合日は未知数の2万人超の観客が見込まれることで「3つの課題」が生じる。

(1)駅から会場の距離 最寄りのJR熊谷駅から会場まで約3・5キロ。市は会場までの道を「ラグビーロード」と名付け、照明やファンゾーン(イベント会場)を設けて、楽しみながら歩くことを推奨する。過去の大会を参考に「外国人は3キロぐらいの徒歩移動は苦にしない」との見解を示すが、片道徒歩50分のハードルは決して低くない。

(2)シャトルバス運行 自家用車の乗り入れを制限するため熊谷駅などからシャトルバスを運行予定。近隣の羽生市や群馬県太田市などに自家用車からバスに乗り換える「パーク&バスライド」の駐車場を計6カ所整備する。バス輸送は最大で283台と試算。しかし、9月29日のジョージア戦前日に茨城国体の開会式が行われ、近県の応援要請もあり「バスや運転手が足りなくなるかも」との意見も出ている。市は輸送テスト検証後に策を検討する。

(3)終電時間 9月24日のロシア戦は午後7時15分開始で、終了は同9時ごろになる見通し。会場の混雑を考慮すると、東京方面への上り電車の終電に間に合わない客が出る恐れがある。現在のダイヤでは、在来線の終電が上野行き午後11時11分発、新幹線が東京行き同10時28分発。帰宅困難者が生じた「平昌(ピョンチャン)オリンピックになるかも」との声もあり、市と県は今年7月にJR東日本に終電延長の働きかけを行った。

改修工事後の熊谷ラグビー場(埼玉県提供)
改修工事後の熊谷ラグビー場(埼玉県提供)

他会場は本番に向け、2万人規模の代表戦や大規模興行で着々と警備や輸送の“テスト”を行う中、市はなすすべがない状態が続く。日本協会には代表戦実現を呼び掛けているが、02年のトンガ戦以来ない。輸送問題の解決方法を探るために「今できること」として、20日のパナソニック-キヤノン戦で輸送テストを実施する。11月のテストマッチを控える代表選手抜きの試合で2万人規模は見込めないが、トライする。島村氏は言う。「課題もあるが、W杯は熊谷が生まれ変わる大きなチャンス。課題をクリアして必ず成功させる。官民一体となって、暑さだけでなくラグビー熱の日本一も証明する」。東の聖地が11カ月後の“大勝負”に向けて、解決策を模索する。【峯岸佑樹】

◆熊谷市 埼玉県北部に位置する。1933年(昭8)熊谷町が市制施行して誕生。「猛暑の街」としても有名で、今年7月に国内観測史上最高41・1度を記録。主な出身者はラグビー元日本代表の堀越正巳、サッカー日本代表原口元気ら。面積は159・82平方キロ。人口19万7856人。富岡清市長。