いくぞ、東京五輪。水泳世界選手権が12日、韓国・光州で開幕する。注目は飛び込みだ。シンクロ種目で8位以内、個人種目で12位以内になれば、東京五輪代表に内定。全競技を通じて、個人での「東京五輪内定1号」になる。13日の男子シンクロ板飛び込み寺内健(38)坂井丞(26=ともにミキハウス)組から内定がかかる選手が続々と登場。お家芸の競泳とオープンウオーターも含めて何人が東京切符を手にするか? 世界選手権のガイドをお届けします。【取材・構成=益田一弘】

■寺内、最多6大会へ

13年9月の開催決定から5年10カ月。いよいよ東京五輪に出る「選手名」が決まり始める。全競技を通じて、内定1号の機会があるのが男子シンクロ板飛び込みの寺内、坂井組。ベテラン38歳の寺内が「自分が先陣をきって決めることが大切」と言えば、2度目五輪を狙う26歳の坂井も「8位以内は大前提」。同種目決勝は13日午後8時45分開始だ。

国際水連は同選手権8位以内で五輪出場枠をその国に付与する。枠の使い方は各国に委ねられるが、日本水連は枠を獲得したペアを代表にすることを決めている。上位12チームで争う決勝で8位入賞を果たせば、東京切符。これまで開催国枠を獲得した競技はあるが、どの選手が出るか、までは決まっていない。知名度アップの面でも飛び込みに、絶好の機会が巡ってきた。

寺内は馬術の杉谷に並ぶ日本勢最多の五輪6大会出場がかかる。16歳で96年アトランタ大会出場からトップを張ってきた。坂井は12歳上の寺内が一時引退していた08年北京五輪後に頭角を現した。3歳から寺内を知っており「健ちゃん」と呼んできたが、試合で競うようになって「健くん」に変わった。「ずっと健ちゃんが呼びやすいけど。さすがに26歳が38歳に『ちゃん』づけはヤバい」と坂井。そのやりとりを見た柔道で五輪3大会金メダルの野村忠宏氏が「お前、先輩に対して、それは…」と驚くと寺内が「飛び込みはこんな感じなんですよ」と、とりなしたという。

そんな2人がコンビを組んだのは15年4月。ともに個人種目で臨んだプエルトリコ遠征。大会中に試合の間が空いたために、大会関係者に「明日シンクロがあるから出たら」と誘われた。ほぼ練習なしでいきなり優勝。寺内は「全力でパフォーマンスしたら合った。出たらって勧めた役員が嫌な顔をしてましたわ」。16年リオ五輪後に個人種目と並行してペアも本格始動。シンクロ種目で五輪に出場すれば、日本初のケースになる。

2人のタイプは対照的だ。ストイックな寺内は試合中にしゃべらないが、会話が好きな坂井から「それってどうにかなんないですかね?」。試技前にタオルをプールに投げるタイミングを合わせ、板の上で歩く速度を合わせる。ルーティンきっちりの寺内に対して「もういいじゃないですか。開き直ったら」と坂井がいう。38歳のベテランも「僕はきれい好きで、彼はいいかげんというか不器用。でもそこに救われることがある」。

寺内、坂井組は昨夏のジャカルタ・アジア大会で自己ベストの408・57点で銅メダルを獲得。そのスコアは、17年世界選手権で7位相当だ。美しい演技が持ち味の2人にとって入賞=五輪内定は通過点。寺内は「東京五輪でメダルを目指すにはトップ5に入りたい」と意気込んでいる。

◆寺内健(てらうち・けん)1980年(昭55)8月7日、兵庫・宝塚市生まれ。96年アトランタ大会から五輪5度出場。最高順位は00年シドニー大会高飛び込み5位。01年世界選手権では3メートル板飛び込みで銅。170センチ、69キロ。

◆坂井丞(さかい・しょう)1992年(平4)8月22日、神奈川県生まれ。10年日本選手権で高飛び込みと3メートル板飛び込みの2冠を達成。16年リオ五輪に3メートル板飛び込みで初出場して、予選22位で敗退。171センチ、58キロ。

<荒井祭里も決勝レベル>寺内、坂井組の後も内定候補が登場する。個人種目は上位12人の決勝進出で五輪に内定。準決勝が五輪切符への関門になる。16日の女子高飛び込みは親子3代で五輪出場を狙う金戸凜が出場。ノースプラッシュの美しい入水が武器。また、4月の日本室内選手権2位の荒井祭里も十分に決勝が狙えるレベルにある。17日には男子3メートル板飛び込みに寺内、坂井がそれぞれ出場。シンクロ種目とのダブル代表内定の可能性もある。


競泳

金メダル=五輪代表内定になる。注目は、男子200メートル平泳ぎ世界記録保持者の渡辺一平(22=トヨタ自動車)だ。渡辺は「2分5秒台を出して金メダル」と宣言。17年1月に樹立した2分6秒67を2年半ぶりに更新する覚悟。6月には約3週間の米高地合宿を敢行。2年前の銅メダルから世界の頂点をつかみとる。ライバルは17年大会金メダルのチュプコフ(ロシア)。今季は2戦2敗。自己記録も2分6秒80と接近しており「世界記録を出さないと勝てない」と渡辺。前半から飛ばす渡辺か、驚異のスパートを誇るチュプコフか、勝負は予断を許さない。

他の金メダル候補は、400メートル個人メドレーで男子の瀬戸大也、女子の大橋悠依になる。リオ五輪前年の15年世界選手権ロシア大会は、瀬戸、星奈津美、渡部香生子の3人が金メダルで五輪代表に内定している。東京五輪の前哨戦として3人に期待が集まる。


アーティスティックスイミング

東京五輪の前哨戦を戦う。17年世界選手権はロシア、中国に次ぐ3位争いをウクライナと展開。五輪種目で1勝3敗。井村ヘッドコーチは選手の大型化を模索し2年でメンバーをがらりと変更。同選手権はテクニカルルーティン、フリールーティンでそれぞれ順位をつける方式。東京五輪の表彰台を確保して2番手中国に近づくため、今大会はウクライナに対して勝ち越しが求められる。


オープンウオーター

10位以内で五輪代表に内定する。女子は初代表の新倉みなみ(21=セントラル目黒)と五輪2大会出場の貴田裕美(34=コナミスポーツ)が出場。明大4年の新倉はもともと競泳の中距離選手で中学、高校と全国大会に出場。5月の代表選考を兼ねたオーシャンズカップでは10キロを泳いで貴田に0秒1差で初優勝を飾った。日本勢にとって10位以内は簡単ではないが、21歳は世界の舞台で力泳する覚悟だ。


水球

男子「ポセイドンジャパン」が、強豪と真っ向勝負する。世界ランキング14位の日本は、予選リーグで同16位ドイツ、同5位イタリア、同13位ブラジルと対戦。日本は独自戦術「パスラインディフェンス」で勝負する。通常、DFは相手FWと味方ゴールの間で守備をするが、個の力で劣る日本DFはFWの前に位置してパスを通させない戦術をとる。女子も昨夏ジャカルタ・アジア大会銅メダルからの巻き返しを誓っている。