暑い! 夏本番を迎えた東京は8月に入り、最高気温が連日35度を超える猛暑日が続く。20年の東京五輪では選手はもちろん、観客の「暑さ対策」が大きな課題の1つとされる。東京都や組織委員会などによる実証実験が進んでいるが、夏の甲子園や野外フェスティバルを訪れるファンは独自の対策を実施。熱中症の危険から自分で身を守り、炎天下で試合やイベントを楽しんでいる。真夏の屋外観戦、野外鑑賞の“達人”に、暑さ対策の必須アイテムやポイントを聞いた。【近藤由美子、荻島弘一】
“甲子園観戦の達人”とは、「ラガーさん」の愛称で知られる印刷会社勤務の善養寺隆一さん(54)。休みを取り、99年からは甲子園で行われる高校野球全国大会を毎試合欠かさず見続けている。
善養寺さんが真夏の試合観戦で持参するのは、特製うちわ、タオル、プラスチックコップ。飲み物は1・5リットルペットボトル入りの「コカ・コーラ」とスポーツドリンクそれぞれ1本ずつ。さらに、100円均一ショップで購入した氷2袋を量販店で購入した小型クーラーボックスに入れて持参する。服装は帽子をかぶり、ラガーシャツに短パンというスタイルだ。
ポイントは氷だ。以前は冷たい飲み物をポットに入れていたが、冷たさがもの足りなくなった。去年から氷をクーラーボックスに入れて持参した。氷をコップに入れ、飲み物を注ぐ。「今の甲子園の暑さはヤバイね。冷たいものがないと死んじゃう。氷があれば、いつでも冷たいものが飲める」。氷は半日はもつという。
おにぎり数個やサンドイッチを持参するものの、暑すぎて食欲が湧かないこともある。「食欲がなくなっても、冷たい飲み物は欲しくなる」。飲み物は2種類とするのも、長時間観戦ならではだ。「『味変』しないと飽きるからね」。毎日観戦するため、節約も欠かせない。「氷はコンビニだと高いからね、100均に限るよ」と力説した。
「迫力がなくなるから」と、屋根のある場所での観戦はしない。「汗をこまめにふき、冷たい飲み物をこまめに飲む。試合と試合の合間に休憩も必要だね」。
ちなみに、来年の東京五輪観戦予定について聞くと「行きたいけど、そんな余裕はない。来年も甲子園に行くことで頭がいっぱいだよ!」と話した。
◆ラガーさんの主な持ち物 特製うちわ、タオル、プラスチックコップ。1・5リットル「コカ・コーラ」とスポーツドリンク 氷2袋
■頭肩バスタオル お守りで漢方薬
“野外フェス鑑賞の達人”の音楽制作会社勤務の村井悠さん(35)は、毎年年間約30本の野外フェスを鑑賞しているという。06年「ロク・イン・ジャパン」から、各地の野外フェスを楽しんでいる。「この10年だけでも温暖化が進んでいると肌で感じている」としみじみと話す。
暑さ対策グッズとして持参するのは、大きめのバスタオル、冷却グッズ「ヒヤロン」2~3個、冷凍させたペットボトル入りスポーツドリンク3~4本、漢方薬。鑑賞前には、日焼け止めもしっかり塗る。
フェス会場に、凍っている飲食物はあまりないという。飲み物は暑さですぐにぬるくなるため、凍らせたものを持って行くことがポイント。飲むだけでなく、体の冷却にも使用する。「凍らせたペットボトルで、首の後ろを冷やしたりしています」。保冷効果を高めるため、凍らせたスポーツドリンクを保冷ホルダーに入れ、さらに小型クーラーボックスに入れることも大事だという。
バスタオルも「必須」と力説する。熱を遮断するために、頭からかぶる。「日差しがかなりキツいので、頭だけでなく、肩も日を遮ることが大事です」。「ヒヤロン」は具合が悪くなりそうだと感じた時の緊急用。漢方薬は暑さで頭が痛くなりかけた際の「お守り」として持参する。
野外フェスは朝から夜まで行われている。日陰での休憩もポイントに挙げた。「基本的に日陰があります。無理して見ようと欲張らず、会場を楽しむくらいの気持ちを持った方がいい。1時間、頑張っても2~3時間ライブを楽しんだら、20~30分は日陰で休憩を取る。休憩を取らないと体力を消耗してしまいます」と休憩の大切さも強調した。
<人工雪マシン1日5回>5日間で約30万人以上の動員を見込む大型野外フェスティバル「ロック・イン・ジャパン」(茨城県・国営ひたち海浜公園、8月3、4、10~12日)は、昨年から人工雪マシンを導入した。1日約5回雪を降らせ、今年は5日間で約25トンの氷を使用予定。担当者は「暑さを少しでも和らげること、そして楽しんでいただきたいと、夏に雪を降らせる意外性も含めて始めました」と説明。昨年は観客から「次は何時からなのか」と聞かれるなど、大好評だったという。
ほか、ミストシャワーを全7カ所、メッシュ生地などの日よけテントを3カ所設置する。波形のテントもある。担当者は「風にも強いので使い勝手も良い」とした。テントだけで約2000平方メートルの日陰を作る予定。
<アイススラリー手掌冷却>国立スポーツ科学センター研究員の中村真理子氏は、限られた時間の中で効果的に行うことが求められる競技現場での暑さ対策に、「アイススラリー」と「手掌冷却」を推奨している。
「アイススラリー」は体の内部冷却が目的で、スポーツドリンクをシャーベット状にしたものを摂取する。「手掌冷却」は体の外部冷却が目的で、13~15度の氷水で前腕部分を冷やす。中村氏は「深部体温の過度な上昇を防ぐこと」をポイントに挙げた。日本の夏は欧米に比べ、温度だけでなく湿度も高い。中村氏は「2つの冷却方法は、日本の夏のような高温多湿にも効果的」としている。また、運動前の暑さ対策としては、選手だけでなく誰にでも有効だとしている。
<組織委もあの手この手>大会組織委員会も東京都も、観客の自発的な「暑さ対策」を期待する。7月30日の組織委理事会では「暑さ対策」に関する意見が噴出。「会場入り口で並ぶのが心配」「水分補給が重要」「医務室が狭いのでは」などの中には「自己責任」という意見まであった。武藤敏郎事務総長は「自己責任とは言わないが、暑さ対策に決め手がないのは確か。対策を周知することも我々の役割」と話した。
入場時の待ち時間短縮、ミスト噴霧器や大型扇風機の設置、涼感グッズ配布、医療体制の整備からかぶる日傘まで…。組織委や東京都は今夏のテスト大会で数々の検証をしている。暑さ対策は、輸送と並ぶ今大会の大きな課題。本来は禁止されているペットボトル飲料などの持ち込みを検討するなど、きめ細かな施策を積み重ねて猛暑に備える。
もっとも、最大の効果が期待できるのは観客自身の「対策」。検証テストのビーチバレー会場では入り口に大きく「気温」が張り出され、DJも「水分補給を」と連呼した。「体調管理や帽子着用など、観客のみなさんにも気をつけていただければ」と東京都環境局の若林憲担当部長。組織委の中村英正GDO(写真)も「来場される方への暑さ対策の周知徹底も大切」と話す。自らの身は自らで守る-。人任せではない暑さ対策こそ、応援に集中するカギだ。
●ビーチバレー会場で行われた検証テスト
◆かぶる日傘 暑さ対策グッズで最も注目されるのが、東京都が製作した「かぶる日傘」。5月の発表直後は「恥ずかしい」「かっこ悪い」とネットを中心に酷評されたが、テスト大会で試着した都市ボランティアには「両手が使える」「涼しい」と意外に好評だった。傘と違って手が使え、帽子と違って蒸れずに頭皮にも優しい。小池都知事も見た目を逆手にとって「何より目立っていい。ボランティアがすぐに分かるでしょ」と話した。飛脚や傘地蔵など日本の伝統を感じさせるフォルムは外国人にも人気。もしかしたら、東京大会の「レガシー」として温暖化に悩む人類を救うかもしれない。
◆ミストタワー ビーチバレー会場入り口の手前には、大型ミストタワーが設置された。「暑さ対策」は最寄り駅から会場までが東京都の管轄、会場内は組織委員会。猛暑の中、会場までたどりついた観客の体をクールダウンするのが目的。近年は街中にもミスト噴出器が設置されている。今後は各会場での設置場所が検討される。
◆医者いる救護所 ビーチバレーには会場内の医務室とは別に入場口前に救護所があった。都が設置したもので、医師と看護師が常駐。もちろんエアコン完備で、熱中症などの応急処置が施される。救護所とは別に休憩用のテントも設置。室外用エアコンや大型扇風機、冷水器が置かれた。何より暑い日差しから逃れられるのが大きい。
◆ゲートにアサガオ 課題にあがるのが、入場ゲートのセキュリティーチェック。身動きできない列が熱中症を誘発する。組織委ではテントや大型扇風機などを設置し、見た目にも涼しい鉢植えを並べるなど工夫する。リスク回避へ待ち時間を短くするには、スムーズなセキュリティーチェックが必要。事前に小物入れを用意して財布やスマホなどを出してもらうなど、準備をしている。
◆涼しい休憩所 会場内にはエアコン付きのテントを設置。観戦中に体調不良を起こした観客が休み、再び観戦できるようにしている。猛暑の中でも室内は快適そのもの。ある程度の広さを確保しても、多くの観客が押し寄せてパンクする可能性もある。中村GDOは「互いに声掛けをしてもらって、うまく運用できれば」と話した。
◆土産的冷涼グッズ 東京都がビーチバレー会場で配布したのが「涼感タオル」「扇子」「瞬間冷却剤」の暑さ対策グッズ。ゴミ対策もあって、持ち帰りを促すためにビーチバレーのイラストを入れて「お土産」としても好評。グッズに関しては、本番でも配布や販売をする予定。進化するグッズはコンビニにも並ぶから、購入してから出かけるのも妙案。