ピョンチャン五輪取材も4日目を迎えた。12日に、北朝鮮の三池淵(サムジヨン)管弦楽団を追いかけ“民間人が自力で行くことが出来る最も北朝鮮に近い場所”として知られる、韓国と北朝鮮との非武装地帯(DMZ)目前の臨津閣(インジンガク)に行き、そこからピョンチャン五輪の中心地・平昌、取材の拠点を置く江陵(カンヌン)と転々とした。夕方、江陵のオリンピックパークに着いた途端、思いがけないシーンに出くわした。

 降りたバス停前の広場で、大会マスコットのスホランと9人の若い女の子たちが、荻野目洋子も「ダンシング・ヒーロー」としてカバーした、英歌手アンジー・ゴールドの「Eat You Up」のメロディーに乗って激しく踊っていた。五輪会場の近くで「ダンシング・ヒーロー」を聞くことになるとは思わなかった。

 女の子たちは上はスエット、下はジャージーやタイツなど思い思いの格好だったが軽装だった。日本でもピョンチャン五輪開幕前から連日、厳しい寒さについて報じられてきたが、江陵は夜はさすがに寒いが、昼は風さえ吹かなければ手袋をつけなくても大丈夫だ。

 一方、臨津閣や平昌は酷寒だ。臨津閣は北朝鮮が目視できるほど北にあり、周囲を山に囲まれていて風も強く、付近を流れる臨津川は、岩のように大きな氷の固まりが折り重なるように凍り付いていた。

 平昌は、臨津閣よりさらに山深い。女子ノーマルヒルで日本人初の銅メダルを獲得した高梨沙羅(21=クラレ)ら、日本ジャンプ陣が飛んだジャンプ台が見えるバス停で降りると、山あいから吹き下ろしてくる風が尋常じゃないほど冷たく、強い。手袋1組では風を通してしまい、2組重ねてもいいくらいだ。空気も乾燥しており、10分ほど歩いていると、右手人さし指と爪の間から血が出てきた。

 平昌の緯度は北緯37度で、日本の中でも寒い北緯38度の新潟とほぼ同じだが、J1アルビレックス新潟の担当記者だった4年を振り返っても、平昌ほどの寒さは経験したことがない。出発時から「なぜ、それほど寒いのだろう」と疑問に思っていたので韓国入り後、各所で理由を聞いて回った。その中、ソウルで話を聞いた男性が明快に答えてくれた。

 男性 北のシベリア半島から、猛烈に冷たい風が朝鮮半島に吹き下ろすからです。学生時代に、地理の授業で習いました。ソウルでは、ソウルとシベリアをかけた“ソウベリア”なんて言葉もあるくらいです。

 一方、海岸沿いにある江陵は、平昌や臨津閣のように周囲を山に囲まれておらず、寒さはずいぶんやわらぐ。それにしても、夕方で日が落ちかけてきた江陵で、スエット姿で「ダンシング・ヒーロー」とは…。韓国の女の子は、パワフルだ。【村上幸将】

江陵オリンピックパーク近くで「ダンシング・ヒーロー」を踊る9人の女の子(撮影・村上幸将)
江陵オリンピックパーク近くで「ダンシング・ヒーロー」を踊る9人の女の子(撮影・村上幸将)