極寒オリンピック(五輪)が深刻化している。11日のスノーボード女子スロープスタイル予選は強風のため中止となり、全27選手が決勝に進出。10日のスキージャンプ・ノーマルヒル(NH)では氷点下の中、試合終了が深夜0時20分ごろ。強風も重なり競技が何度も中断した二重苦に、さすがのレジェンド葛西紀明(45)も中止レベルと苦言を呈した。同競技場を取材した記者の温度計は氷点下13・6度を記録。欧米との時差を考慮した試合開始時間に「アスリートファースト」はどこへ行ったのか。
海辺の街、江陵(カンヌン)から高原の平昌に移動しただけで、体感温度が全く違う。開会式が行われた平昌五輪プラザから、アルペンシア・ジャンプセンターまでは、さらにシャトルバスで山を上る。ジャンプ台のスタート地点は標高800メートル超といい、「寒い」が「痛い」に変わった。
開始直後はにぎわっていた会場だが、刻々と観客が減った。NH1本目が終わり、周りを見渡すと空席だらけ。暖房が効いている一時待機場所にでもいるのだろうと思っていたら、2本目に入っても人は戻らない。本来ならメダル争いで盛り上がる上位陣の終盤戦には、ガラガラになり、各国オリンピック委員会のユニホームを着た関係者ばかりが目立った。
観客の男性は口元を暖めようとマスクをしていたが「マスクに付いた息が凍って寒い」と逆効果。といって外すと今度は鼻水が止まらなくなった。スノーボードウエアを着た女性は防寒を完璧にしたつもりが「動いていないと凍る…」と、会場のDJに合わせて踊りまくった。
記者が持参した温度計で、1本目終了時が氷点下10・2度。競技終了直後の深夜0時30分ごろには同13・6度だった。強風のため体感温度はさらに低い。11日、葛西はブログで「マイナス30度ぐらいに感じた」とつづった。
数少ない観客も競技終了と同時に、帰路へ。感動的であるはずの表彰式は、ほぼ関係者だけだった。
観客にとっては、そこからがさらに大変。平昌エリアにはシャトルバスが出るが、それ以外の江陵などへは自力で帰らなければならない。しかし、そのシャトルバスすら40分以上来ず、同約15度の中、観客は身を震わせた。当然、不満が噴出しボランティアが対応するが、英語が話せないスタッフは半べそをかいていた。
極寒の中、午後9時35分試合開始という設定は一体、現場にいる誰のためになるのか…。ジャンプ競技は欧州で人気。巨額の放送権料の兼ね合いで、夏季五輪も含め欧米に最適な放送時間に合わせて、試合スケジュールを組むため今回のような“現場軽視”の状況に陥りやすい。
20年東京五輪・パラリンピックも欧米と昼夜は逆。猛暑が懸念されており、なんとしても選手や現場を第一に考えてほしい。【三須一紀】