【特別編集委員コラム】2011年までのセ担当記者は分かる…ミクロの攻防/連載4
近ごろのプロ野球担当記者には、分からないであろう話を書きます。入社以来30年間の手帳を振り返っていて、1997年(平9)で目が止まりました。
プロ野球
◆飯島智則(いいじま・とものり)1969年(昭44)生まれ。横浜出身。93年に入社し、プロ野球の横浜(現DeNA)、巨人、大リーグ、NPBなどを担当した。著書「松井秀喜 メジャーにかがやく55番」「イップスは治る!」「イップスの乗り越え方」(企画構成)。日本イップス協会認定トレーナー、日本スポーツマンシップ協会認定コーチ、スポーツ医学検定2級。流通経大の「ジャーナリスト講座」で学生の指導もしている。
盛田、野村、川村、関口…
冒頭にある年間予定表に、盛田、野村、川村、関口、盛田④、野村④、川村④、森中、関口④…などと、横浜(現DeNA)ベイスターズの投手の名前が書き込まれています。その横に赤ペンで「○」「×」とあります。
これ、先発予想ですね。当時のセ・リーグは予告先発ではなかったので、担当記者が翌日の先発投手を予想して、会社に伝えていました。
つまり、4月5日の中日戦で、私は川村先発と予想したが、実際には野村で「×」。同9日の阪神戦で、私は米と予想して、実際は盛田が中4日で先発したわけです。名前の後の数字は、「中●日」という登板間隔を記しています。
かなり苦心の跡が見えますね。修正液で消して予想し直している部分もあります。
先発予想が外れたからといってペナルティーを受けるわけではありませんが、担当記者としては恥ずかしいものです。
球団の人たちはよく見ていました。他社の担当記者が読み切っているのに、私だけ外れたときは「練習を見ていれば分かるはずだよ」と言われたり、逆にローテーションを再編したときに的中させると「よく取材しているね」と称賛されました。
紙面では「今日のプロ野球」という対戦表に投手の名前を書くだけなのですが、取材現場では話題になることが多かったのです。
投手との知恵比べ
練習を取材しているとき、どの投手がブルペンに入ったかをチェックしておくのが基本です。A投手は登板前日にブルペン入りをするが、B投手は2日前に入る…などの調整方法を把握しておけば、大きなヒントになります。
ただ、ブルペンが室内にある球場もあります。横浜スタジアムもそうでした。 ベンチから見ているしかない記者としては、「ブルペンに入った」というところまでは確認できますが、その中で何をしていたかまでは分かりません。
実際には投げないのに、ブルペン内で軸足の膝付近を泥で汚して、さも投げたような顔で出ていく…といったトリックを使った時期もあるそうです。
まあ、裏をかいたところで、どれだけの効果があるのかは分かりません。私は今のような予告先発でいいと思っていますが、ともかく当時のセ・リーグ担当記者には、パにはない仕事があったのです。
手帳をよく見ると、各月の上部に分数が書いてあります。
4月は「20/22」、5月は「14/19」、6月は「16/21」…どうも、27歳の私は、先発予想の的中確率まで出していたようです。
シーズンを終えた後の12月の欄で、計算までしています。トータルで「112/135」。的中率は8割2分9厘6毛…ご丁寧に四捨五入して「・830」と書き、何重もの線で囲んでいます。
ここまで執着していたということは、もしかすると誰かと勝負していたのかもしれませんね。
翌年からは○×こそないものの、同じ欄に予想先発を書いています。
今となっては昔の話です。
コラム「手帳の余白」
日刊スポーツに「特別編集委員室」が立ち上がりました。取材経験が豊富、かつ表現力が豊かなライター集団。「日刊スポーツ・プレミアム」を中心に、健筆を振るいます。飯島智則編集委員は、コラム「飯島智則 手帳の余白」を随時掲載。どうぞお楽しみ下さい。

1969年(昭44)生まれ。横浜出身。
93年に入社し、プロ野球の横浜(現DeNA)、巨人、大リーグ、NPBなどを担当した。著書「松井秀喜 メジャーにかがやく55番」「イップスは治る!」「イップスの乗り越え方」(企画構成)。
日本イップス協会認定トレーナー、日本スポーツマンシップ協会認定コーチ、スポーツ医学検定2級。流通経大の「ジャーナリスト講座」で学生の指導もしている。
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