【特別編集委員コラム】ヤクルト村上の激走…32打数無安打のジーター重ね/連載13
調子が悪いとき、結果が出ないとき、どんな態度をするか。スーパースターの重要な要素ではないでしょうか。2004年、ヤンキースのキャプテン、デレク・ジーター選手は32打数ノーヒットという不調に陥りました。しかし、このときの立ち居振る舞いがチームメートから信頼され、ファンから愛される要因になりました。スポーツ選手のみならず、大切なことだと思います。
プロ野球
◆飯島智則(いいじま・とものり)1969年(昭44)生まれ。横浜出身。93年に入社し、プロ野球の横浜(現DeNA)、巨人、大リーグ、NPBなどを担当した。著書「松井秀喜 メジャーにかがやく55番」「イップスは治る!」「イップスの乗り越え方」(企画構成)。日本イップス協会認定トレーナー、日本スポーツマンシップ協会認定コーチ、スポーツ医学検定2級。流通経大の「ジャーナリスト講座」で学生の指導もしている。
ヘッドスライディング
ヤクルト村上宗隆選手の激走を見ながら、デレク・ジーターを思い出しました。
村上は6月17日のオリックス戦、三塁への内野安打で一塁に激走し、19打席ぶりのヒットとしました。さらに後続のヒットではホームへヘッドスライディングを見せました。
昨年の3冠王は、シーズン序盤から本来のバッティングができていません。リーグ連覇中のチームも下位に低迷しており、心中、苦しい日々が続いていることと思います。
ただ、テレビ中継などで見る限りですが、村上は昨年と同じように全力プレーを欠かしていません。その姿、チームが勝ったときに見せる笑顔を見るにつけ、打ちまくっていた昨年よりも、彼を応援したくなります。
凡打から始まるニュース
あの時のジーターもそうでした。ジーターはヤンキースの元キャプテン。通算3465安打、ポストシーズン史上最多の200安打を放った名選手です。
2004年、ジーターは東京ドームで行われた開幕2戦目にシーズン初安打を放ち、4月7日からは9試合連続ヒットと、例年通りに順調なスタートを切りました。
ところが、4月21日から突如として不調に陥りました。ヒットが出ないばかりか、甘い球も打ち損じてボテボテのゴロになってしまい、凡打の山が築かれていきました。
彼の不調は、全米スポーツニュースのトップニュースになりました。連日ジーターの凡打からニュースが始まるのです。
球場ではジーターが打席に立つと、試合展開に関係なくスタンディングオベーションが起き、「レッツゴー・ジーター」という大歓声が響き渡りました。いや、ジーターの打席でもないのにジーターコールが起きた日もありました。彼の不調は、全米の注目を浴びていました。
しかし、当のジーターは何も変わらないのです。ボテボテの内野ゴロを放つと、一塁ベースを全力で駆け抜け、アウトになってダッグアウトに戻ると、最前列でチームメートに声援を送っていました。
打った選手にハイタッチを求め、得点にガッツポーズで喜ぶ。チェンジになれば真っ先にダッグアウトを飛び出し、ショートの位置まで全力で走っていきます。
10打数、15打数、20打数、25打数…いくら凡打が続いても、ジーターの立ち居振る舞いはまったく変わりませんでした。
4月28日、彼の無安打はついに32打数まで伸びてしまいました。チームは連勝を飾りましたが、試合後メディアに囲まれたのはジーターでした。私も取材の輪に加わりました。
矢継ぎ早に飛ぶ質問に対し、ジーターはいつもと同じように涼しい顔で答えました。
「体調が悪いわけじゃないし、ピッチャーがいいところに攻めているんだ。ゴロばかりだけど、自分のスイングは変えないよ」
一度言葉を切り、カメラを見つめて続けました。
「ここ数日、チームは攻撃も守りもいいね。オレ以外は…ね」
そう言うと、ジーターはカメラに向かってウインクをして見せたのです。記者たちからも笑いが出て、何だかヒーローインタビューのような雰囲気になりました。
「あなたのような男になりたい」
松井秀喜選手にジーターの不調を問うと、こんな答えが返ってきました。
「ジーターのことは誰も心配していないよ。彼も悲壮感はないし、みんな、いつか打ち出すと思っている。シーズンが終わったときには、ここ数日のことも『そんなこともあったっけ』と話しているでしょう」
この頃、球場のスタンドで手作りのボードを掲げる少年を見ました。ボードにはこう書かれていました。
「Derek, I want to be a man like you(デレク、ボクはあなたのような男になりたい)」
ホームランやヒットではなく、凡打を重ねる姿で、子どもに「あなたのような男になりたい」と思わせたのです。
翌29日にジーターは1号ホームランで無安打の行進を止めました。試合後、ジーターは「スタンドに入るまでは(空を飛ぶ)鳥に当たって捕られるんじゃないかと考えたよ」とジョークを飛ばしましたが、同僚のゲーリー・シェフィールドは真剣な表情でコメントしました。
「彼は結果が出ない間も、安打が続いているかのような態度を貫いた。人として素晴らしい姿だった」
ジーターは、凡打の山を築きながら人々の心を魅了していたのです。
プレーだけじゃない 真のスーパースターへ
村上は23歳と若い選手です。今ぶつかっている壁を乗り越え、真のスーパースターへと成長していくことでしょう。
神がかり的に打っていた昨年より、苦しむ今年の姿を見ながら、私は強くそう思っています。
コラム「手帳の余白」
日刊スポーツに「特別編集委員室」が立ち上がりました。取材経験が豊富、かつ表現力が豊かなライター集団。「日刊スポーツ・プレミアム」を中心に、健筆を振るいます。飯島智則編集委員は、コラム「飯島智則 手帳の余白」を随時掲載。どうぞお楽しみ下さい。

1969年(昭44)生まれ。横浜出身。
93年に入社し、プロ野球の横浜(現DeNA)、巨人、大リーグ、NPBなどを担当した。著書「松井秀喜 メジャーにかがやく55番」「イップスは治る!」「イップスの乗り越え方」(企画構成)。
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