【特別編集委員コラム】ヤクルト青木の逆転3ランに思う 頭部負傷の危険性/連載16
ヤクルト青木宣親選手が、頭部死球を受けたわずか2日後、代打で逆転ホームランを放ちました。ベテランといえど恐怖心はあったでしょうが、持ち前の強いステップで右翼スタンドに打球を飛ばしました。素晴らしいホームランに感動する一方、これを機に頭部負傷の危険性を理解してほしいと思い、記事を書きました。青木は大リーグ時代、頭部負傷の影響に悩んだ時期がありました。
プロ野球
154キロが頭部に…
ヤクルト青木宣親選手(41)の逆転3ランに感動しました。感動したのですが、ジュニア世代の野球を考えて、どうしても書いておきたいと思いました。
7月28日のDeNA戦(神宮)。1-3の6回裏1死一、二塁、代打で登場した青木は、東の直球を右翼席中段まで運びました。
「とにかく自分に負けないように、打席に集中して立ちました」というコメントには、プロとしての誇りが込められていると感じました。
青木は2日前の同26日、広島栗林が投じた内角高め154キロの直球が頭部に当たってしまいました。頭部を固定した状態で担架で運ばれ、病院でCT検査などを行いました。
翌7日にはグラウンドに姿を見せ、ウオーミングアップとキャッチボールといった軽い練習をしましたが、大事を取ってベンチには入らず、そのまま東京へ戻りました。
青木は強く踏み込んでいくバッティングが持ち味でもあり、頭部への死球が多い選手です。日本では通算7度目で、自身が持つ最多記録を更新してしまいました。
「自分に負けないように」という言葉は、打席内の恐怖心に負けず、強く踏み込んでスイングするという決意の表れに感じました。
現状で軽傷のようで安心しましたが、頭部の負傷は後日になって影響が出てくる可能性もあります。「セカンドインパクト」と呼ばれる症状で、誰よりも青木がその怖さを知っているでしょう。
大リーグ、サンフランシスコ・ジャイアンツに所属していた2015年8月9日、敵地でのカブス戦で頭部に死球を受けました。高速スライダーが右こめかみ付近に直撃し、青木は「当たった直後は気持ち悪くなった」と、しばらく動けませんでした。
しかし、自力で立ち上がり、ベンチに退いています。この件を報じる同年8月11日付の日刊スポーツには「試合後には食事を取るなど表情は明るく」とも書いてあります。3日後の12日には試合にも出場しています。
その後、脳振とうに限定された故障者リストに入って休養した後、8月20日には試合復帰したものの、再び目まいや嘔吐(おうと)感を訴えたのです。
9月5日の朝、ホテルで起床した際に「胸が苦しかった」ため病院で検査を受け、再び欠場に至りました。このとき「目を動かすと頭が重くなったりする。感情のコントロールが出来ない感じ」というコメントを残しています。
セカンドインパクトは、短期間のうちに再度、脳に衝撃を受けて起きることが多いのですが、脳振とうは激しい揺れによっても起こるものなので、運動自体がセカンドインパクトを引き起こしてしまう恐れもあります。
ですから、青木のホームランに感動すると同時に、頭部負傷の恐ろしさを強調しておきたいのです。ジュニア世代の指導者や選手は、決して軽視することなく、慎重な対応をしてほしいと思います。
ボールが当たる、フェンスに激突するなど頭部に強い衝撃を受けた際は、まず病院で検査を受ける必要があります。また、異常がなかったにしても、復帰までは完全休養をした後、医師の診断を受けながら少しずつ運動の強度を上げていきます。
「頭部外傷10か条の提言」
一般的に知られているものでは「段階的競技復帰プロトコール」という指針が示されています。
①活動なし
②ウオーキングなど軽い有酸素運動
③ランニングなどスポーツに関連した運動
④接触プレーのない運動
⑤メディカルチェックを受けた後に接触プレー
⑥競技復帰
各段階は24時間以上をあけて、症状がなければ次の段階に進むとされています。
学童野球などで指導をする方々には、野球のルールブックや指導書よりも先に、ぜひ目を通してほしいものがあります。日本臨床スポーツ医学界の学術委員会、脳神経外科部会が、スポーツに参加する指導者や選手、保護者に向けて発行する「頭部外傷10か条の提言」です。
これは医学的な専門知識を持たない者でも理解できることが前提で、有益な情報が理解しやすく書かれています。
例えば選手が頭を打った際、意識を確認するための質問事項も「ここはどこ?」「グラウンドの名前は?」「3ケタの数字を言うから、それを逆に言ってください」など具体的に示されています。
また、受傷直後に変化がなくても、時間の経過とともに意識障害が生じて悪化する可能性もあります。その時間は「短くて数分、長い場合は数時間から1日」とあります。そのため、頭をぶつけた直後は、選手を1人にしてはいけません。必ず誰かが付き添った状態で休む必要があるのです。
頭部の負傷は、気合や根性でどうにかなるものではありません。本人が「プレーを続けたい」と希望しても、断固として止めなければなりません。
「野球をやる上で必要なこと」
中学野球を取材したときのこと。試合が始まった1回表、初球のスローカーブが1番打者の頭にコツンと当たりました。
緩い球で、打者は痛みも感じなかったようです。出塁を喜ぶように一塁へと走っていきました。あとで聞くと、俊足が自慢の選手なので「盗塁してやるぞ」と意気込んでいたのでしょう。
しかし、審判や両チームの監督が駆け寄り、支えてベンチへと連れ帰りました。代走が出され、コーチたちは病院に連絡して検査の手はずを整え始めました。
「ボク大丈夫です」
「いや、病院に行って検査を受けなさい。大丈夫だと思うし、そうであることを願っているが、万が一にも後で具合が悪くなったら大変だ。これは野球をやる上で必要なことなんだ。試合に出たい気持ちは分かるが、検査を受けてきなさい」
そんなやりとりをした後、コーチの車で病院へ向かいました。幸いにも異常はなく、医師の許可を得てグラウンドに戻ってきましたが、その日は練習をせず、用具の整理などサポート役に徹していました。
大げさなようですが、私は適切な判断だと思います。石と同じ硬さのボールが頭に当たったのです。威力が弱くとも、当たりどころが悪くて問題が生じる可能性もあります。腕や足への死球と同等に考えてはなりません。
頭部だけでなく、ジュニア世代では胸部にボールが当たって心臓振とうを起こす恐れも高いといわれています。野球に限らず、どのスポーツにも危険性があります。それを十分に理解しておく必要があるのです。
青木のホームランは多くのファンの胸に刻まれたことでしょう。同時に、頭部負傷の危険性を再認識する機会になればと願います。
◆飯島智則(いいじま・とものり)1969年(昭44)生まれ。横浜出身。93年に入社し、プロ野球の横浜(現DeNA)、巨人、大リーグ、NPBなどを担当した。著書「松井秀喜 メジャーにかがやく55番」「イップスは治る!」「イップスの乗り越え方」(企画構成)。日本イップス協会認定トレーナー、日本スポーツマンシップ協会認定コーチ、スポーツ医学検定2級。流通経大の「ジャーナリスト講座」で学生の指導もしている。
コラム「手帳の余白」
日刊スポーツに「特別編集委員室」が立ち上がりました。取材経験が豊富、かつ表現力が豊かなライター集団。「日刊スポーツ・プレミアム」を中心に、健筆を振るいます。飯島智則編集委員は、コラム「飯島智則 手帳の余白」を随時掲載。どうぞお楽しみ下さい。

1969年(昭44)生まれ。横浜出身。
93年に入社し、プロ野球の横浜(現DeNA)、巨人、大リーグ、NPBなどを担当した。著書「松井秀喜 メジャーにかがやく55番」「イップスは治る!」「イップスの乗り越え方」(企画構成)。
日本イップス協会認定トレーナー、日本スポーツマンシップ協会認定コーチ、スポーツ医学検定2級。流通経大の「ジャーナリスト講座」で学生の指導もしている。
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