【数奇な履歴書〈上〉】国内唯一、元世界王者の女性ボクシングジム会長

ある意味、数奇な運命を自ら演出している。ボクシングの元世界王者で、引退後にジムの会長は珍しくないが、女性は国内でただ1人しかいない。元WBO女子世界フライ級、元WBC同級暫定王者の野上奈々(44)は現在、大阪・堺市のディアマンテジム会長を務める。幼少期は日本舞踊をたしなみ、将来は着物の着付けを夢見ていた少女がたどってきた半生に迫った。2回連載の上編。

ボクシング

元世界王者 野上奈々会長
有望選手指導の傍ら、子育ても奮闘中

元世界王者・野上奈々会長(右)。愛弟子の女子アジア王者吉川と

元世界王者・野上奈々会長(右)。愛弟子の女子アジア王者吉川と

野上奈々(のがみ・なな)

1978年(昭53)6月25日、大阪・羽曳野市生まれ。大阪女子短大高でバスケットボール、大阪国際女子大ではフルマラソンに挑戦しながら、3年時からボクシングを始める。アマ時代は全日本女子3階級制覇、08・12年世界選手権日本代表。13年7月にプロデビュー。リングネームは好川菜々。14年3月、3戦目で東洋太平洋女子ライトフライ級王座獲得。16年10月、WBO女子世界フライ級王者。17年12月、WBC女子世界フライ級暫定王座を獲得し、翌18年4月に現役引退を表明。プロ戦績は8勝(4KO)2敗。18年5月に夫の真司氏と大阪・堺市にディアマンテジムを設立した。

12年全日本女子選手権、フェザー級で優勝し世界選手権日本代表に選出された

12年全日本女子選手権、フェザー級で優勝し世界選手権日本代表に選出された

嘱望された日本舞踊、着物が好きだった少女時代

奈々会長は「二刀流」の多忙な日々を過ごす。ジムの看板、会長であり、2歳の男の子を育てる母でもある。一時も目が離せない年ごろだが「かわいいですよ」とまなじりを下げる。そんな優しいママの顔も、練習や試合では一変する。

「世界に向かえる選手を出すために闘う。自分が見た以上の世界を見たい」

現在、愛弟子のWBO女子アジアパシフィック・ミニマム級王者吉川梨優那をはじめ、男子選手も全日本新人王を獲得するなど有望選手を多く抱える。15年に結婚した元WBOアジアパシフィック・スパーフェザー級王者の野上真司(48)がオーナーとして支え、夫婦で夢の世界を目指す。

そんな人生も30年以上前は想像もできなかった。「体を動かすのが大好きで、スポーツは頑張ってましたけど、ボクシングは見たこともなかった」。殴り合う世界など無縁。どころか正反対の世界を夢見ていた。

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スポーツ

実藤健一Kenichi Sanefuji

Nagasaki

長崎生まれ、尼崎育ちで九州とお笑いを愛する。
関大を卒業後、90年に入社。約2年の四国勤務でいろいろ学び、大阪に戻って主に大相撲、ボクシングを担当。
その後、担当記者として星野阪神の優勝に立ち会えて感動。福岡勤務などをへて相撲、ボクシング担当に舞い戻る。